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小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『恵比寿屋喜兵衛手控え』 佐藤雅美 時代小説の新たな地平

   

書評的な読書感想文387 おすすめ度☆☆☆☆

『恵比寿屋喜兵衛手控え』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

佐藤雅美(作家別索引

講談社文庫 1996年9月

時代 お仕事(ジャンル別索引

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

面白い。時代物の新しい地平を開いた作品。江戸時代の弁護士的な仕事をする、公事宿の主が主人公というだけでも十分面白いのですが、変に人情じみてなく人間臭い人物造詣も秀逸。時代物の好きは読むべき作品。

 

あらすじ

争いは世の常、人の常。江戸の世で、その争いの相談所が恵比寿屋のような公事宿だ。ある日、若者が恵比寿屋を訪れ、兄が知らぬ男に金を返せと訴えられたと相談した。喜兵衛は怪しい臭いを感じとる。事件の真相は如何に?江戸の街に生きる市井の人々を、愛情込めて描く長編歴史小説。第110回直木賞受賞作。

 

公事宿の主が主人公の直木賞受賞作

物語の主人公は恵比寿屋という宿屋の主、喜兵衛です。この恵比寿屋、ただの宿屋ではなく公事宿といわれるもの。公事宿とはいったいどんなものかというと、

出入(公事訴訟事)には一定の約束事がある。きのうきょう在からやってきましたという田舎者の手にはおえない。そこで宿によっては、片手間に公事訴訟事の相談にのり、あれこれ世話を焼くようになった。お上にとってもそれは都合のいいことで、いつしか宿の、公事訴訟事の世話焼きを公認するようになった。喜兵衛の宿恵比寿屋も、そんな”公事宿“の一つである。(P23)

平たく言えば、宿屋兼民事訴訟の弁護士といったところでしょうか。

 

この物語の何が面白くて、どんなところが時代物の新しい地平を開いたのかといえば、公事宿の主を主人公に据え、江戸時代の公事訴訟を真っ向から取り上げたことだといえます。

 

もちろんただ取り上げるだけではなく、当時の民事訴訟の手順やうんちくを違和感なく物語の中に溶け込ませ、公事師なんていう当時のもぐりの弁護士との対決といったサスペンス要素も取り入れて物語として面白く読ませる形に仕上げているのが素晴らしいところだと思います。

 

ちなみに当時と現代との違いで個人的に気になったのは、証文や印章の偽造は江戸時代では引廻之上獄門、つまり死刑になること。なんでそこまで重い罪なのかは、当時と今のシステムの違いによるものなのですが、その理由は読んで確かめてみてください。

 

人間臭さが秀逸

この物語の特徴の一つに人物造詣の巧みさが上げられます。裁判がテーマの物語で主人公が弁護士的な仕事をするので、悪事を働く悪者から善良な弱者を守る物語を想像するかもしれませんが、そんな単純な話ではありません。

 

主人公の喜兵衛は冷徹というわけではありませんが、しっかりビジネスとして自分の仕事をしていて、やることはしっかりやりますが薄情なところは薄情でばっさりと切り捨てていたりもします。弁護されるの農民も単なる弱者ではなくしたたかな一面も持ち合わせています。

 

こういったおとぎ話的な人物ではなく、きちんと人間臭い、なんだか現代にでもいそうな人物が描かれていることによって、変に人情じみた話ではなく現実感のある話になっています。

 

書評的な読書感想文のまとめ

なかなか他にないタイプの物語で、江戸時代の生活の新たな一面を見さしてくれた作品です。目新しい切り口というだけではなく、物語としてもとても面白い作品で、時代物好きならぜひ読むべき作品ってことで、おすすめ度は星四つです。

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