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小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『雁の寺・越前竹人形』 水上勉 読後感は正反対

   

書評的な読書感想文372 おすすめ度☆☆☆☆

『雁の寺・越前竹人形』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

水上勉【水上勉さんの他の作品】(作家別索引

レーベル 1969年3月

サスペンス 恋愛(ジャンル別索引

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

「雁の寺」は、どろりと凝り固まった少年僧の殺意を心理描写をほとんどせずに描いた作品。少年の得体の知れなさが秀逸。「越前竹人形」は、悲劇的な結末なのに爽やかな読後感の作品。主人公の夫婦の純愛に肩入れしてしまいます。

 

あらすじ

“軍艦頭”と罵倒され、乞食女の捨て子として惨めな日々を送ってきた少年僧慈念の、殺人にいたる鬱積した孤独な怨念の凝集を見詰める、直木賞受賞作の『雁の寺』。竹の精のように美しい妻玉枝と、彼女の上に亡き母の面影を見出し、母親としての愛情を求める竹細工師喜助との、余りにもはかない愛の姿を越前の竹林を背景に描く『越前竹人形』。水上文学の代表的名作2編を収める。(作品紹介より)

 

直木賞受賞作品、「雁の寺」

今回の作品は、以前このブログで紹介した、日々の食事のことを書いたエッセイや子供の頃に修行をしていた禅寺の食事係の話をまとめた『土を喰う日々』の水上勉さん作品です。直木賞受賞作で少年僧が殺人に至るまでの過程を描いた「雁の寺」と竹細工師と元女郎の純愛を描いた「越前竹人形」の二つの中編を収録しています。

 

「雁の寺」の何より凄いところは、少年の心理描写がほとんどないところです。主な登場人物は、少年僧の慈念、和尚の慈海とその妻の里子の三人で、物語のほとんどの視点は里子の視点です。里子の視点から少年僧・慈念の得体の知れなさを描くことで、その内面にあるどろりと凝り固まった殺意を少しずつ描き出しています。

 

影絵のようにあぶりだされた慈念の殺意は、読者の内面にも蓄積され、少年僧が師匠を殺害するという、非現実的な事象に説得力を与えます。普通なら現実味のない事柄なのに、この少年ならやりかねないなと、妙に納得できました。

 

人間の真実を描いた、直木賞に相応しい作品だと思いますが、終盤で急にミステリー調になるところは必要ないのかなとも思いました。

 

「越前竹人形」

「越前竹人形」は、竹細工師の喜助と元は女郎の玉枝との純愛を描いた物語です。舞台となった越前の山奥の村の風景や、越前の伝統工芸である竹人形が、物語の美しさをいっそう高めています。個人的には直木賞を受賞した「雁の寺」よりも面白いと思いました。

 

主人公で、自分の体型や容貌に非常にコンプレックスを抱いている喜助が、母親に似ていて非常に美しい玉枝を聖母のように崇めます。玉枝のほうも、最初こそ違和感を感じますが、徐々にその愛を受け入れます。とても奇妙で、一歩間違えれば嫌悪感さえ抱かさせるような愛の形(完全にマザコン)なのですが、読んでいて自然と主人公夫婦に肩入れをしてしまいます。

 

ただ、愛の形が安定するのは、ほんの一瞬のことで、それ以外は悲劇的な出来事ばかり起き、結末もかなり悲劇的なのですが、読後感は不思議と爽やかでした。夫婦の魂の結びつきを感じられる、良質な純愛物語です。

 

書評的な読書感想文のまとめ

どちらの作品も、悲劇的な出来事を描いていますが、読後感は正反対です。ただ、どちらの作品もとても興味深く読むことができ、非常に有意義な読書ができたってことで、おすすめ度は星四つです。

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