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小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『演歌の虫』 山口洋子 「よこはま・たそがれ」の作詞家

   

書評的な読書感想文368 おすすめ度☆☆☆☆

『演歌の虫』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

山口洋子(作家別索引

文春文庫 1988年2月

恋愛 お仕事(ジャンル別索引

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

大人の恋愛を描いた短編が多いのですが、男女双方の微妙な心理が描かれているのが凄い。女性作家なのに、男のずるさや弱さにリアリティがありました。また、表題作は大人の青春と挫折を描いた良作です。

 

あらすじ

演歌に情熱を燃やすレコード会社のディレクターの夢と挫折を、女性作詞家の眼で描く表題作、旦那が来るのをひたすら待ち続ける老芸妓の心情を淡々と描く「老梅」の直木賞受賞作のほか、良質のジゴロ小説「貢ぐ女」、プロ野球選手とポルノ女優のしがらみをヴィヴィッドに描く「弥次郎兵衛」を収録した会心作。(作品紹介より)

 

作詞家としても知られる作者の直木賞受賞作品

作者の山口洋子さんは作家としてももちろん高名な方ですが、なにより作詞家として名を馳せた方です。もとは女優としてデビューしますが、その後女優を諦め、銀座に高級クラブを開業します。著名人が集まる繁盛店だったそうです。

 

そして、歌手の友人の勧めで作詞活動を始めるのですが、中条きよしさんの「うそ」、石原裕次郎さんの「ブランデーグラス」など数々のヒット曲を生み出します。中でも、五木ひろしさんを見出し、「よこはま・たそがれ」「ふるさと」などの歌詞を提供するだけでなく、プロデューサーとして全面的にバックアップしたことが最大のヒットと言えるでしょう。

 

表題作の「演歌の虫」には、五木さんがモデルになっていると思われる人物が出てきて、実際に山口さんが五木さんにかけた言葉(かなり厳しい叱責)が使われています。

 

大人の恋愛を描いた短編

そんな山口さんの今回の作品ですが、四つの短編からなる短編集です。それぞれ89回、91回の直木賞の候補になった、「貢ぐ女」「弥次郎兵衛」、93回の直木賞を受賞した「演歌の虫」「老梅」の四作品です。

 

「貢ぐ女」は、ヒモの男に貢ぐ女のしたたかさと弱さを描いています。「弥次郎兵衛」は本妻と愛人の間をゆれる野球選手の男の、ずるさと弱さが描かれています。そして、「老梅」では政治家の旦那を待つ愛人と、しがいない記者とその愛人、二組の愛人関係が描かれています。

 

三作とも大人の恋愛を描いた良作で、個々に読み応えのある作品ですが、三つ並べてみると山口さんの凄さがわかります。「貢ぐ女」の女性主人公の心理がリアルに描かれているのは、作者も女性なので納得できるのですが(もちろんこの時点で十分凄い)、「弥次郎兵衛」で二人の女性の間を揺れ動く男性のずるさと弱さがリアルに描かれているのが本当に凄いです。

 

男女両方の心理をリアルに描ける作家さんはそうはいないと思うのですが、山口さんは確実にその一人です。本人の資質もあるのでしょうが、銀座のお店でさまざまな男性と出会った経験が生かされているのではないでしょうか。

 

大人の青春

表題作の「演歌の虫」はレコード会社のディレクターを、女性作詞家の眼から見た作品。演歌に情熱を燃やし、新人の発掘など地味だが丁寧な仕事するディレクターが描かれているのですが、挫折も味わいながらも夢に向ってがんばる様子は、大人の青春物語と言えそうです。

 

また、作詞家としての作者の経験が生かされた私小説的なところもあり、登場人物の何人かは実在のモデルが居るようです。上に書いた五木ひろしさんもその一人で、実際に五木さんかけたといわれるセリフを引用します。

真物のスターというのは、自分ひとりがベンツに乗ることではなく、そういうスタッフや仕事に関わった人間の何人をベンツに乗せるかにかかっていると私は思うのだ。(P207)

深い。

 

書評的な読書感想文のまとめ

単独でも凄いのですが、まとめて読むとさらに凄い作品。男女双方の微妙な心理が描かれている稀有な作品ってことで、おすすめ度は星四つです。

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