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小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『鷺と雪』 北村薫 ベッキーさんシリーズ最終巻

   

書評的な読書感想文362 おすすめ度☆☆☆

『鷺と雪』(文庫)

おすすめ度☆☆☆(星数別索引&説明

北村薫(作家別索引

文春文庫 2011年10月

ミステリー 時代(ジャンル別索引

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

戦前の上流階級の雰囲気が伝わってきて興味深く、また、情景や能の舞台の描写が秀逸で、目の前に絵か浮かびます。ミステリー部分は微妙ですが、切ないラストが印象的。一巻から読んでいたら、もっと楽しめそう。

 

あらすじ

昭和十一年二月、運命の偶然が導く切なくて劇的な物語の幕切れ「鷺と雪」ほか、華族主人の失踪の謎を解く「不在の父」、補導され口をつぐむ良家の少年は夜中の上野で何をしたのかを探る「獅子と地下鉄」の三篇を収録した、昭和初期の上流階級を描くミステリ〈ベッキーさん〉シリーズ最終巻。第141回直木賞受賞作。(作品紹介より)

 

昭和初期の上流階級を描いた直木賞受賞作品

昭和初期の上流階級を舞台にした、ミステリーの直木賞受賞作。社長令嬢の主人公の英子と博識のお抱え運転手・別宮みつ子、通称ベッキーさんがさまざまな事件を解決するミステリー作品、「ベッキーさんシリーズ」の第三弾で、最終巻です。

 

直木賞受賞作品だったのでいきなりこの巻から読んだ私が言うのもなんですが、シリーズの第一弾、第二段の『街の灯』『玻璃の天』と順番に読むことをおすすめします。一応この巻から読んでも問題ない作りにはなっていますが、シリーズ最終章で表題になっている「鷺と雪」の切ないラストは、シリーズのしっかり読んでこそ、その意味を正しく理解できるように思いました(順番に読んでいないので、予想ですが)。

 

そんな、今回の作品ですが、物語の主人公の英子は日本有数の財閥系商事の社長令嬢で、華族の令嬢が集うお嬢様学校に通っています。親戚や友人は元大名など華族のお金持ちばかりです。そんな英子の日常、つまり昭和初期の上流階級の日常が描かれていることが、この物語の見所の一つです。

 

あまり物語になることのない(少なくとも私が読んだ本の中では)時代設定なので、とても興味深く読めました。修学旅行の様子などが特に。ただ、貧困層との対比や戦争が迫りくる時代のきな臭さなどがもっと表現されていても面白いのかなって思いました。

 

圧巻の描写力

この作品で何より凄かったのは、その描写力です。物語の中で描かれている映像が目の前にはっきりと浮かびます。そのひとつがこちら

(管理人註:早朝のシーン)夫婦岩への大きなカーブをちょうど回った時、太陽は、遠望する山々を完全に離れた。烈々たる円形ははしご段を上がるようにぐんぐんと上昇して行く。(管理人:中略)

昇る旭日と共に、宿を出た頃にはやや切り抜き影絵めいていた辺りの風物も、一気に彩を持って来た。横からの光に、人々の顔もくっきりと浮かんで来る。冷え冷えと頬を刺した早朝の空気にも、幾らか穏やかさが加わるたようだった。(P211)

朝の風景が鮮烈に浮かびます。

 

また、さまざまなシーンの中でも圧巻だったのが、物語のクライマックスでもある、日本の伝統芸能、能の演目『鷺』の描写です。能の名手の神がかり的な演技が描かれていて、読んでいて鳥肌が立ちました。

 

このシーンだけでも、この物語を読む価値があると思います。

 

書評的な読書感想文のまとめ

大勢の使用人たちの前で失踪した、子爵の謎。上野美術館近くで補導された少年の家出の理由。絶対にそこにいるはずのない人が写っている写真の謎。取り上げられているミステリー自体は、トリックも物語性も特筆すべきものではないと思います。

 

ただ、昭和初期の上流階級の雰囲気は興味深く、圧巻の描写力は一見の価値があります。日本で最も有名な雪の日の一つを舞台にした切ないラストも印象的です。ただ、シリーズをはじめから読んでいないので、理解し切れなかったところもあるってことで、おすすめ度は控えめの星三つです(おそらくシリーズをぜんぶ読んだら上がります)。

作家別索引

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