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小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『強力伝・孤島』 新田次郎 自然の驚異と人間の狂気

   

書評的な読書感想文356 おすすめ度☆☆☆☆

『強力伝・孤島』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

新田次郎(作家別索引

新潮文庫 1965年7月

人間ドラマ 冒険(ジャンル別索引

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

満足な装備や技術がない時代に、大自然に挑んだ人々を描いた短編集。冬の富士山などの描写は、とんでもない迫力とリアリティーがあります。また、自然に対抗する人間の狂気もすさまじいです。「凍傷」が特に秀逸。

 

あらすじ

五十貫もの巨石を背負って白馬岳山頂に挑む山男を描いた処女作「強力伝」。富士山頂観測所の建設に生涯を捧げた一技師の物語「凍傷」。太平洋上の離島で孤独に耐えながら気象観測に励む人びとを描く「孤島」。明治35年1月、青森歩兵第五連隊の210名の兵が遭難した悲劇的雪中行軍を描く「八甲田山」。ほかに「おとし穴」「山犬物語」。“山”を知り“雪”を“風”を知っている著者の傑作短編集。(作品紹介より)

 

山岳小説の大家の直木賞受賞作品

今回は、実在の登山家をモデルにした作品や山岳遭難事故を題材にした作品など、山岳小説で有名な新田次郎さんの直木賞受賞作品です。ご本人は山岳小説家と呼ばれることは不本意だったそうですが、山岳の地形や厳しい天候の描写は、とんでもない迫力とリアリティーがあります。登山好きの皇太子徳仁親王も愛読されているそうです。

 

また、作者は現在の気象庁の職員だった経歴をもち、富士山や母島の観測所に配属された経験があります。そのことが今回の作品にも生かされています。ちなみに、職員だった頃の最大の功績は、富士山気象レーダーの建設の携わったことで、この工事はNHKの番組の『プロジェクトX』の第一回の放送に取り上げられています。

 

そんな新田さんの今回の作品は、直木賞を受賞した朋文堂版の『強力伝』に収録されている、「強力伝」「凍傷」「山犬物語」の三編と「八甲田山」「おとし穴」「孤島」の計六編が収録されています。どの作品も、新田さんの初期の頃の短編で、大自然に挑む人間の姿を描いています。

 

自然の驚異と人間の狂気

巨大な石を人力で白馬岳山頂に運ぶ男を描いた「強力伝」。山犬と人間の対決を描いた「山犬物語」。絶海の孤島で気象観測を行った人々の孤独を描いた「孤島」など、今回の作品集は、自然(動物も自然の一部なので)に挑む人間がテーマになっています。しかも、各作品の舞台は、江戸末期や明治、昭和初期などで、満足な装備や技術がない時代になっています。

 

そんな今回の作品の見所は、自然の驚異の描写がとんでもない迫力とリアリティーで描かれていることです。今作品で私が一番気に入った短編、「凍傷」は冬の富士山が舞台なのですが、猛吹雪の中で登山をする主人公たちの描写は、登山なんて全くしたことのない私ですら、まざまざと情景を思い浮かべることができました。夏の暑い時期に読んだのですが、ちょっと寒く感じられるほどの、迫力とリアリティーが感じられます。

 

また、もう一つの見所が人間の狂気のすさまじさです。表題作の「強力伝」では、主人公がはたから見たら無謀としかいえないような巨石運びに命をかけて挑戦します。「山犬物語」では、山犬によって娘を奪われた主人公が、命をかけて山犬に復讐します。どの物語も、自然の驚異だけでなく、その驚異をものともしない人間の情熱や怨念が元になった狂気が描かれています。

 

自然の驚異と人間の狂気の対決、これこそがこの物語の最大の見所です。

 

「凍傷」

私が一番気に入った作品は「凍傷」です。この作品は、冬の富士山に気象観測所を建設することを目的に、冬の富士登山が安全であることを証明するため、実際に登山を行った主人公を描いた実話をもとにした物語です。

 

何よりすごいのは、上に書いたように冬の富士山の過酷さを描いたシーンです。また、それに対抗する冬の富士登山を成功させようとする、主人公の情熱もすごいです。情熱が行きすぎて狂気に変わるきっかけになるのが、タイトルの「凍傷」という言葉なのですが、このタイトルが物語にどうか関わるかは読んで確かめてください。

 

書評的な読書感想文のまとめ

ここまで迫力のある自然を描いた作品は読んだことがありませんし、そんな大自然に対抗できる人間の描写も素晴らしいです。読んで絶対に損はない、自信を持っておすすめできる作品ってことで、星四つです。

作家別索引

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