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小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『恋歌』 朝井まかて 幕末の水戸藩

   

書評的な読書感想文332

『恋歌』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

朝井まかて(作家別索引

講談社文庫 2015年10月

時代 家族(ジャンル別索引

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

幕末の水戸藩を藩士の妻の立場から見た物語。幕末の不安定さや水戸藩士が維新以後に活躍できなかった理由が描かれていて、興味深く読めました。また、藩士の妻子たちが投獄された牢屋での描写は、その凄みに鳥肌が立ちました。

 

あらすじ

樋口一葉の師・中島歌子は、知られざる過去を抱えていた。幕末の江戸で商家の娘として育った歌子は、一途な恋を成就させ水戸の藩士に嫁ぐ。しかし、夫は尊王攘夷の急先鋒・天狗堂の志士。やがて内乱が勃発すると、歌子ら妻子も逆賊として投獄される。幕末から明治へと駆け抜けた歌人を描く、直木賞受賞作。(作品紹介より)

 

樋口一葉の師・中島歌子の半生を描いた直木賞受賞作品

今回の作品は明治時代に和歌と書を教える私塾「萩の舎」を主宰した歌人、中島歌子の半生を描いた直木賞受賞作。「萩の舎」には『たけくらべ』などで知られる樋口一葉も学んでいて、一葉は内弟子として歌子の家に住み込み、最終的には助教まで勤めたそうです。

 

ただ、今作では「萩の舎」時代の歌人としての歌子がメインテーマではなく、水戸藩士の妻として幕末の水戸藩に生きた歌子がテーマになっています。

 

明治政府では活躍できなかった水戸藩

主人公の歌子が嫁いだ先は水戸藩の中級武士でした。水戸藩といえば古くからの尊皇派で、黒船襲来と並ぶ幕末の大事件、幕府の最高権力者の大老・井伊直弼を水戸藩の脱藩者たちが刺殺した事件、桜庭門外の変で明治維新の口火を切った藩です。

 

しかしながら、明治政府の要人の中には水戸藩出身者の名前がありません。なぜ、水戸藩は明治維新の表舞台から姿を消してしまったのか?その答えが今回の作品の中に描かれています。

 

また、今作では佐幕派、尊皇派、攘夷に開国と簡単に正邪が入れ替わる、不安定な幕末の水戸藩の様子が描かれています。「時代小説の不可触領域(P376)」といわれた幕末の水戸藩が、藩士の妻のならではの視点で切り取られています。

 

投獄

物語の最大の見せ場は、主人公の歌子が水戸藩の内乱に夫が加担した罪で逆賊として投獄された牢屋の中のシーンです。苛酷な環境の中で何にも投獄され、同じ牢屋に入っていた人たちが次々と斬首されるのを横目に見ながらの牢屋の生活の描写はその凄みに鳥肌が立ちました。

牢番が檻の錠前を開けて「お前だ」と腕を摑む、その瞬間を考え始めると、もう井戸の底に落ちて行くように想像が止まらなくなる。菰の上に坐らされる瞬間、穴の上に半身を倒されて首を刎ねられる刹那の痛みまで想像して、歯の根が合わなくなるのだ。頭に手をやると髪が束になって抜け、月のものも止まった。(P291)

 

こんな地獄の中で、本性を表す人、気がふれる人、武士の妻としての矜持を守り抜く人、さまざまな人が描かれています。

 

書評的な読書感想文のまとめ

私は言われて初めて気付いた疑問ですが、明治新政府に水戸藩士の名前がない理由、幕末の水戸藩が物語の舞台にならない理由、その理由が今回の作品には描かれていて、興味深く読めました。

 

また、まさに地獄のような牢獄の描写は、本当に鳥肌が立ったということで、おすすめ度は星四つです。

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