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小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『ゴサインタン―神の座―』 篠田節子 タイトルは山の名前

   

書評的な読書感想文320

『ゴサインタン―神の座―』(文庫)

おすすめ度☆☆☆(星数別索引&説明

篠田節子(作家別索引

文春文庫 2002年10月

人間ドラマ 家族(ジャンル別索引

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

主人公の転落と再生がテーマですが、神と宗教や貧困問題などのテーマも持つ重厚な作品。ただ、テーマが多すぎてちくはぐさも感じました。個人的には文明とは何かを考えさせられるネパールの村を描いた終盤が印象的。

 

あらすじ

豪農の跡取り、結木輝和はネパール人のカルバナと結婚したが、両親が相次いで死に、妻の奇異な行動で全財産を失う。怒り、悲しみ、恐れ、絶望……揺れ動き、さまよいながら、失踪した妻を探して辿り着いた場所は神の山ゴサインタンの麓だった。現代人の根源にある、魂の再生を力強く描く第10回山本周五郎賞受賞作。(作品紹介より)

 

転落と再生がテーマの山本周五郎賞受賞作

第10回山本周五郎賞を受賞した篠田節子さんの作品。物語のテーマは「転落と再生」。

 

主人公の結木輝和は地域の盟主的な存在の豪農の跡取り息子。輝和の無気力な性格と豪農の嫁というハードルの高さから、40歳間近になっても結婚できない輝和は、国際的なお見合い組織を利用してネパール人と結婚することに。

 

あいつで両親を亡くし、悲しむまもなくネパール人の妻の宗教めいた行動のために輝和は全財産を失います。そこから、妻をあがめる人々との共同生活、失踪した妻を捜す旅を経て、無気力で、身勝手で、甘ったれた性格だった輝和が、一個の人間として再生する物語です。

 

複数のテーマと高いリーダビリティ

物語の見所の一つが複数のテーマを内包した重厚な物語になっていることです。数あるテーマの中でも印象的なのが、「神と宗教」の問題。輝和の妻が予言めいた神がかった行いにより、新興宗教的な団体が出来上がります。

すべての宗教の目的は教えを広めることではなく、拡大、増殖そのものにあるのではないだろうかと輝和は思った。(P311)

 

淑子(管理人注:ネパール人妻のこと)に包まれることによって、彼らは楽になる。選択し、判断し、行為に結果を我が身に引き受けねばならぬという辛さから免れるとこができる。(P376)

地下鉄サリン事件の直後から連載が始まった作品ということを考え合わせると、非常に印象的です。

 

他にも、貧困問題、地域農業の問題、発展途上国の支援についてなどなど、さまざまなテーマが作品に内包されていています。ただ、これだけ重いテーマが多いにもかかわらず、高いリーダビリティがあるのでストレスなく、ぐいぐいと読み進めていくことができます。

 

一方で、テーマがいくつもある上に、前半の没落部、中盤の宗教的共同生活、終盤の失踪した妻の探索の旅の三つのパートにくっきり分かれてしまっている印象も受けました。個々のテーマや個々のパートは面白いのですが、全体としてはなんだか短編をつなぎ合わせたチグハグさを感じてしまいました。

 

書評的な読書感想文のまとめ

無気力で身勝手で甘ったれで、なおかつマザコン気味の主人公になじめず、前半はイライラしました。しかし、読み続けていくうちに、成長する主人公に感情移入することになり、終盤のネパールでの失踪した妻を捜す旅のパートはかなり楽しく読めるようになりました。文明とは何か、発展途上国への支援はどうすべきかといった、このパートでのテーマにも共感できます。

 

ただ、全体としては、いくつもの物語をつなぎ合わせたようなチグハグさが拭えなかったので、おすすめ度は残念ながら星三つどまりです。

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