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小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『背徳のメス』 黒岩重吾 テーマは人間の二面性

   

書評的な読書感想文307

『背徳のメス』(文庫)

おすすめ度☆☆☆(星数別索引&説明

黒岩重吾(作家別索引

講談社文庫 1975年12月(このブログの画像等は新潮文庫版です)

サスペンス ミステリー(ジャンル別索引

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

物語のテーマは人間の二面性。戦争の影響ということで読み解くことができますが、現代にも通じるところが多いです。また、昭和三十年代の風俗、文化や場末の病院という舞台の独特の雰囲気が上手く描かれていて興味深いです。

 

あらすじ

大阪の施療院で殺人未遂事件が起った。被害者は、憑かれたように女をあさる背徳産婦人科医だった。彼を憎み、うらむ者は多い。犯人追及の過程で浮かび上がる彼や容疑者たちの暗い過去。戦争で青春を失い、宿命ともいえる業を背負って、吹き溜まりにうごめく人間の生きざまを描いた社会派推理。直木賞受賞作。(作品紹介より)

 

二面性をテーマにした直木賞受賞作品

第44回、昭和35年下半期の直木賞受賞作品です。物語の舞台は大阪のドヤ街で有名なあいりん地区・釜ヶ崎の場末の病院です。主人公の植が宿直中に殺されかけ、その犯人を捜す過程で、さまざまな人物の過去や人間性の裏、場末の病院の闇が見えてくる物語です。

 

私はこの物語のテーマは人間の二面性かなと考えました。主人公の植は憑かれたように女漁りをし、宿直中に抜け出して女性とラブホテルに入ったりします。その反面、仕事に関しては強い正義感を見せることがあります。他にも、看護師や薬剤師、院長などさまざまな人物の表と裏の顔が見え隠れします。

 

このことに関して解説では戦争の影響ということで読み解いています。物語の舞台の昭和30年代に社会で活躍している人たちは、青春時代や思春期を戦争で奪われ、そのことがその後の人生に影響しているといえるでしょう。

 

ただ、ある面でとても残酷な人が別の面ではとても優しいといった、人間の二面性は現代にも通じる話なので、当然ですが戦争の悲惨さなんて知らない私が読んでも共感できました。

 

昭和30年代の風俗や文化

綾子は薬棚から、薬包紙に包んだ薬を出すと、すぐ詰所から出て行った。五尺三寸、十四貫ぐらいか。白衣の下の乳房も臀部のふくらみも、若いエネルギーをはち切れそうに発散させている。植は、今ごろ、ダンスホール・ユニバースで、おそらくちんぴらがかった若者と、手を振り足を振り、ジルバを踊っているに違いない、妙子の姿を思い浮かべた。(P12)

上の文は私が序盤でちょっと衝撃を受けた文章です。例えば夏目漱石の『文鳥・夢十夜』のような、文章としての読みにくさは全く感じませんでした。ただ、昭和30年代の風俗や文化には始めは違和感を感じ、次第に興味がわいてきました。

 

上の分でも「五尺三寸、十四貫」という単位に「エネルギー」なんていうカタカナ語がくっついているのも面白いですし、「ダンスホール・ユニバース」「ジルバ」なんていうのは、なんとなくイメージがつきますが、実際はどんなものか分かりませんでした。

 

ファッションの描写もあって若い女性が「スラックスの上のダスターコートを、冬の夜風になびかせ(P10)」なんてありますが、イメージがつかなくて何度ググッたことか。

 

表面的には戦後の雰囲気がなくなった昭和30年代中盤の雰囲気がとても丁寧に描かれていて、とても興味深く楽しく読めました。

 

書評的な読書感想文のまとめ

物語のジャンルは犯人探しをするミステリーになります。直木賞の選評を読むとミステリーの体裁であることに対し驚くほど批判的です。ただ、現代の感覚からすると全く違和感がないので、そのあたりも時代の差を感じました。

 

また、作者の黒岩重吾さんはかなり激動の人生を送っていて、今回の物語の舞台になった大阪市の西成区のドヤ街に住んでいたことがあったそうです。その経験が活かされた作品は他にもあるそうで、今回の作品を読んで、他の作品も読みたくなったってことで星三つです。

作家別索引

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