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小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』 白石一文 祝300回

   

書評的な読書感想文300

『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上・下』(文庫)

おすすめ度☆☆☆(星数別索引&説明

白石一文(作家別索引

講談社文庫 2011年12月

経済 ミステリー(ジャンル別索引

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

不思議な小説。本筋とは別に主人公が唐突に政治経済や神について思索をします。納得できないことも多々ありますが、私は楽しめました。ただ、これは好き嫌い別れるでしょう。本筋はラストをミステリー的にまとめたのが残念。

 

あらすじ

数々のスクープを物してきた敏腕編集長、カワバタ。大物政治家Nのスキャンダルを追う彼の前に現れた奇妙なグラビアの女。彼女を抱いた日から、人生は本来の軌道を外れて転がり出す。不敵なまでの強引さと唐突さで物語に差し挟まれる数々の引用。小説が真理に近づく限界を極めた、第22山本周五郎賞受賞作。(上巻・作品紹介より)

 

山本周五郎賞を受賞した、物語と思索のカオス

一番の感想は不思議な小説。本筋は、数年前に胃がんの手術を受けた週刊誌の編集長である主人公が、家庭や会社内のトラブルに対処しつつ、ついには本当の生きる意味を見出すという物語です。

 

ここまでは普通の物語なのですが、合間合間にかなり唐突に主人公が思索するシーンが描かれます。その内容は、政治経済から宗教、果ては女性の働き方など多岐にわたり、本筋に関係する部分もあれば、そうでない部分もあります。普通の小説では決して引用されることのない経済の専門書などから、数ページにわたり引用をしたりもします。

 

素人の私なんかでも十分理解できる分かりやすい内容な上に、個人的には理屈っぽいことが嫌いではないので、この思索部分も銃楽しめました。ただ、本筋と思索がごちゃごちゃになったカオスな部分もあり、かなり理屈っぽくもあるので好き嫌いが分かれそうです。

 

この本に興味を持った人も、すぐに購入するのではなく、書店で(特に思索部分を)ためし読みをするのをおすすめします。

 

納得できるとは限らない

思索部分については本当に多岐にわたります。ただ、その中でも強調されるのが格差社会の不条理。日本やアメリカは一見、努力した人が報われる社会、平等な社会に見えるが本当にそうなのか?ということにかなりページを割いています。

 

派遣社員として懸命に働いている人とスポーツ選手とでは、収入で数百倍もの差があるけど、努力に関して本当にそこまで差があるのか?一般の会社員とCEOの収入の格差はさらにでかいけどそれは努力の差だけであるのか?

 

など、具体例を挙げてかなり詳しく書いています。正直納得が出来るところと、出来ないところがありますが(おそらく作者も、全ての人に納得してもらおうとは思っていなさそう)、すごく興味深く読めました。

 

これ以外には、宇宙飛行士が宇宙空間で感じた神の存在を語った文章などもかなり印象的でした。私は全く信心深くはないのですが、それでも楽しめました。

 

本筋はラストが残念

物語の本筋は雑誌編集長の主人公がさまざまなトラブルに巻き込まれる話です。ある政治家のスキャンダルを掲載しようとすると、各方面から圧力がかかる一方で、部下たちは強行に記事の掲載を主張して板ばさみにされたり、社内人事の権力争いに巻き込まれたりします。

 

私生活ではしっくり行かない夫婦生活に疑問を持ちつつ、不倫をしたりします。また、ひょんなことから知り合いの夫婦のDV騒動に巻き込まれたりもします。

 

個人的には、物語の終盤にミステリー風にちょっとしたどんでん返しがあるのが残念です。上にも書いたように、思索と本筋が絡まってカオスな状態になっている物語なので、下手にまとめずに、混乱したまま終わらしたほうがよかったのかなって思います。

 

書評的な読書感想文のまとめ

物語の終盤で主人公は「偽りの神の名が刻まれた矢(P317)」が抜けたことにより、生きる真理を見出します。

 

ネタバレになるので詳しくは書きませんが、個人的にその真理には納得が出来ませんでしたが、そこにいたるまでの主人公の思索の旅を十分に楽しめたので、物語の評価は下がりませんでした。

 

ただ、上にも書いたように最後のまとめ方はちょっと残念だったと思うのと、理屈っぽ過ぎるのでおすすめ度は

星三つです。

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