おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『恋』 小池真理子 いつの間にか感情移入

   

書評的な読書感想文295

『恋』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

小池真理子(作家別索引

新潮文庫 2003年1月

恋愛 人間ドラマ(ジャンル別索引

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

倒錯した恋愛にのめり込む主人公。終始漂う享楽的な雰囲気は、学生運動の時代の空気との対比もあって美しく切ないです。客観的に読んでいたつもりなのに、感情移入していて、ラストの破滅のシーンは胸が苦しくなりました。

 

あらすじ

1972年冬。全国を震撼させた浅間山荘事件の蔭で、一人の女が引き起こした発砲事件。当時学生だった布美子は、大学助教授・片瀬と妻の雛子との奔放な結びつきに惹かれ、倒錯した関係に陥っていく。が、一人の青年の出現によって生じた軋みが三人の微妙な均衡に悲劇をもたらした……。全編を覆う官能と虚無感。その奥底に漂う静謐な熱情を綴り、小池文学の頂点を極めた直木賞受賞作。(作品紹介より)

 

「短編の名手」が長編で直木賞を受賞

今回は「短編の名手」といわれる小池真理子さんの直木賞受賞作品です。旦那様の藤田寛永と同時に候補になったことでも話題になりました。(藤田さんは残念ながら落選、ただ、後に直木賞を受賞しています。)

 

もともと小池さんはミステリーやホラーの短編を多く発表していましたが、この作品を契機に恋愛要素の強い作品も書くようになりました。今回の作品は恋愛小説でありながらミステリーの要素が残っている、小池真理子さんの代表作にしてターニングポイントになった作品といえるかもしれません。

 

倒錯した恋愛と学生運動

物語は主人公の布美子が、大学の助教授の片瀬とその妻・雛子と出会うところから始まります。布美子が学生運動の活動家の彼氏の面倒を見るために実入りのよいアルバイトを探していたのがきっかけでした。

 

愛し合う一方で夫の公認で浮気をしたりと奔放な夫婦の性生活に、布美子は始めは戸惑います。しかし、片瀬や雛子の人間的魅力に引かれ始めるにつれ、戸惑いは憧れに変わり、ついには布美子を入れた倒錯した三角関係が出来上がります。

 

学生運動を行っている布美子の彼氏が貧乏で汚らしい学生なのと対照的に、この享楽的な三角関係は軽井沢の別荘地の景色と共にとても美しく切なく描かれていています。布美子が片瀬夫妻との関係にのめりこむまでの前半だけで、一つの物語として十分成立してると思えるほど印象的でした。

 

客観的の読んでいたつもりが

物語の後半では三人の関係が崩壊し、破滅に向う様子が描かれています。前半の三人の享楽的な関係を印象深く読みながらも、どこかおとぎ話のように現実感の薄い世界の物語として客観的に見ていたつもりでした。

 

ところが、三人の関係を脅かす異分子が登場した際には、その人物に対してものすごく嫌悪感を覚えてしまいました。そして、ついに三人に悲劇な事件が訪れ際には、主人公の気持ちを考えてしまい、胸が痛くて仕方ありませんでした。

 

現実感の薄い物語とばかり思っていたのに、いつの間にか感情移入させられていて驚きました。

 

書評的な読書感想文のまとめ

物語の冒頭で布美子がある秘密を隠していることが語られます。その秘密は物語の終盤で明かされるのですが、こういったミステリー的な要素は、『恋』に関する批評で多くの人が言及していますが、必要ないのかなと私も思いました。

 

ただ、耽美的な恋愛小説として楽しめましたし、小池真理子さんの他の作品も読んでみたくなったなってことで、おすすめ度は星四つです。

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