おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『暗殺の年輪』 藤原周平 「ただ一撃」が絶品

   

書評的な読書感想文289

『暗殺の年輪』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

藤沢周平(作家別索引

レーベル 1978年2月(このブログの画像等は新装版のものです)

時代 人間ドラマ(ジャンル別索引

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

過酷な運命を背負う人々を主人公にした短編集。表題作も面白いが、「ただ一撃」が絶品。老剣士と嫁が心を通わせたからこそ迎える、悲劇的な結末が切ない。また、どの作品も女性が印象的に描かれているのも特徴的です。

 

あらすじ

藩の権力争いの陰で苛酷な宿命に翻弄される下級武士……武家の非情な掟の世界を端正な文体と緻密な構成で描き、直木賞を受賞した表題作。ほかに、暗澹たる人生を歩み続ける男たちの生きざまに深い共感をこめた「黒い繩」「ただ一撃」など四篇を収める。本格時代小説のみがもつ味わいと風格を感じさせる傑作集。(作品紹介より)

 

『たそがれ清兵衛』の作者の直木賞受賞作品

『たそがれ清兵衛』や『蝉しぐれ』など数多くの作品が映像化されている、藤沢周平さんの直木賞受賞作「暗殺の年輪」を含む、時代物の短編5編が収録されている作品集です。

 

表題作以外の4編のうち、3編は直木賞候補になった短編集で、作品集全体を通すはっきりとしたテーマはありませんが、どの話も過酷な運命を背負う人々が描かれています。

 

「暗殺の年輪」

藩の人たちになぜか冷ややかな視線を送られる主人公の下級武士・馨之介。その理由は、藩の重臣の暗殺に失敗して切腹した父親に関係している様子。そんな馨之介が父親同様、重臣の暗殺を依頼されることになり、、、。

 

暗殺依頼をきっかけに父の死の真相を調べ、そのせいで徐々に心が歪んでいく主人公の様子が物悲しく、主人公に手を差し伸べようとする幼馴染は健気さが印象的です。

 

また、剣術シーンが秀逸なのでちょっとだけ引用します。

馨之介も出る。夜気を裂いて、はじめて二つの気合が交錯し、躰が烈しい勢いで擦れ違った。擦れ違う一瞬、男の剣は地を割る勢いで振り下ろされ、馨之介の躰は、しなやかに一度男の脇腹に吸いついてから、のめるように前に擦り抜けていた。(P125)

 

「ただ一撃」

個人的に一番気に入った作品。

 

藩主の前で行われた剣術試合。浪人の清家猪十郎は剣術自慢の藩士を次々と打ち破ります。これに怒った藩主は再試合を行い、清家を必ず打ち破るように命令します。

 

清家に勝てそうな人物を見つけられず困った藩士たちは、かつての達人である老兵法者である範兵衛を担ぎ出そうとします。過去に藩に受けた恩義を返すために範兵衛は試合を引き受けます。剣術の勘を取り戻すために山にこもった範兵衛が戻ってきたときには荒々しい雰囲気を身に付けていました。

 

その後の展開が絶品です。範兵衛の息子は年老いた父親の実力を疑いますが、その嫁は範兵衛を信じてサポートします。しかし、範兵衛と嫁が心を通わせたことによって、不幸な出来事が起きてしまいます。

 

何が起きたかはここでは語りませんが、背筋が寒くなるようなその不幸な出来事の真実がとても切なく、なんとも物悲しい読後感になります。読み終わった後に、何度も何度も思い返してしまう、とても印象的な作品です。

 

書評的な読書感想文のまとめ

上記の二作以外にも、安藤広重の才能に嫉妬する葛飾北斎を描いた「溟い海」や、張り込み対象の女にほれてしまう下っ引きを描いた「囮」など、派手だったり明るくはなく、切なく物悲しいけど印象的な作品が収録されています。また、多くの作品で「ただ一撃」の嫁のように可憐で芯の強い女性が描かれているのも印象的です。

 

悲しい結末の物語ばかりですが、不思議と他の作品も読んでみたいと思うってことでおすすめ度は星四つです。

作家別索引

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