おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『後悔と真実の色』 貫井徳郎 欲張りな作品

   

書評的な読書感想文270

『後悔と真実の色』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

貫井徳郎(作家別索引

幻冬舎文庫 2012年10月

警察 ミステリー(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

前半は本筋よりも警察内での男社会のドロドロした人間関係が見所。機動捜査隊などあまり物語にならない部署の話も面白い。後半は怒濤の展開。犯人に意外性はないけど最後までドキドキしながら読めました。

 

 

あらすじ

“悪”を秘めた女は駆除する――。若い女性を殺し、人差し指を切り取る「指蒐集家」が社会を震撼させていた。捜査一課のエース西條輝司は、捜査に没頭するあまり一線を越え、窮地に立たされる。これは罠なのか?男たちの嫉妬と裏切りが、殺人鬼を駆り立てる。挑発する犯人と刑事の執念。熾烈な攻防は驚愕の結末へ。第23回山本周五郎賞受賞作。(作品紹介より)

 

 

『愚行録』の作者の山本周五郎賞受賞作

今回の作品は、最近映画が公開された『愚行録』の作者、貫井徳郎さんの山本周五郎賞受賞作品です。あとがきに作者の山本周五郎賞受賞の際の言葉が載っているので引用します。

「長い間ミステリーを書いてきましたが、キャリアを重ねるにつれ、ミステリーを書く際に必要な稚気や遊び心が薄れてきました。その分、人物の心理や運命の変転の描写、テーマの深化などに力を注ぐようになりました。

しかし自分の故郷がミステリーであるからには、トリックやどんでん返しを骨格とした小説も書かなければならないとも考えました。それが本書でした。

とはいえ、ここ数年で培ってきた手法を捨てる必要もないので、骨格の上にはしっかりとした描写の肉をかぶせました。登場人物たちの放つ体臭、感情のぶつかり合い、その結果として予期せぬ運命を描くのは、楽しい作業でした。骨格だけではなく肉も、と欲張った作品をひょうかしていただけた(後略)」(P682,683)

作者の言葉だけにこの作品を的確に表現していると思います。さらには、山本周五郎賞の性質にも(山周はミステリーだけではないのですが)的確に表現していると思います。

 

 

男社会の嫉妬

物語の前半の見所は本筋の殺人事件よりも、嫉妬渦巻く警察内部の男社会の模様です。物語の主人公の西條は警視庁捜査一課のエース的存在で、粘り強い捜査と推理で数々の事件を解決してきました。外見もスマートで正義感も強い刑事です。ただ、正義感が強いあまり強引な言動も多く、周囲と軋轢が生じることもあります。

 

この西條を中心に物語の視点は何人かの刑事をいったりきたりします。一癖もふた癖もある刑事たちの内面は決して正義の味方ではなく、足の引っ張り合いや嫉妬があったり、怠惰だったり、不正ぎりぎりの行為をするものもいます。ただ、そうした人間くさい刑事たちのドロドロした人間関係が、ヒーローのような刑事しか出てこない物語にはない深みがあります。

 

また、刑事の人間関係以外には機動捜査隊や捜査一課の現場資料班といったあまり物語では取り上げられない部署にスポットが当てられているのも面白いです。

 

 

怒涛の後半

後半は怒涛の展開です。物語の本筋である連続殺人事件が急展開を迎える上に、主人公の西條があるピンチに陥ります。後半の展開に関しては賛否両論あるようですが、特に西條が自らの不祥事でピンチに陥る展開に山本周五郎賞の選考委員にもいろいろな意見があります。

 

その中で私が気になったのは、篠田節子さんの「丹念に作り込まれた、古典的な英雄譚として読んだ。」という意見。おそらくは、『源氏物語』から『ドラゴンボール』まで連綿と続く手法、ヒーローである主人公がいったんピンチに陥るも、パワーアップして返ってくる展開のことを言っているのだと思います。

 

私はこの意見に賛成できませんでした。主人公の西條は、男前で頭脳明晰、正義感もあるヒーローのような存在です。ただ、その彼が自らの不祥事でピンチに陥ることで、どんな人間もヒーローにはなれないということを作者は言いたいのではないかと読みました。そして、誰もがヒーローにはなれない以上は自分のできる範囲内で懸命に生きるべきというメッセージが込められていると思います。

 

そう考えると、変人で内面にさまざまなものを抱えながらも何とかがんばっている刑事たちや自尊心の肥大して悪に手を染めた犯人の描かれ方にも意味があるのかなって思えました。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

この作品の文庫版は700ページ近い大ボリュウムです。ただ、上に書いたように骨格も肉もある欲張りな作品で、犯人に意外性がなかったりもしましたが最後まで飽きずに読めたってことで星四つです。

作家別索引

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