おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『風化水脈』 大沢在昌 新宿の歴史

   

書評的な読書感想文266

『風化水脈 新宿鮫Ⅷ』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

大沢在昌(作家別索引

光文社文庫 2006年3月(このブログの画像等は新装版のものです)

ハードボイルド 警察(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

二人の男の過去と現在がテーマなのですが、そこから発展して語られる新宿の歴史が面白い。新宿は昔からすごい街だったんだなあと。本筋は安定の面白さ。たた、個人的には晶と桃井にもう少し活躍して欲しいです。

 

 

あらすじ

殺人傷害事件で服役していた藤野組組員・真壁が出所した。だが、真壁が殺そうとした男は、藤野組と組む中国人組織のボスになっていた。一方、高級車窃盗団を追う鮫島は、孤独な老人・大江と知り合う。大江に秘密の匂いを嗅いだ鮫島は、潜入した古家で意外な発見をした―。過去に縛られた様々な思いが、街を流れる時の中で交錯する。心に沁みるシリーズ第8弾。(作品紹介より)

 

 

「新宿鮫」シリーズ第八弾

以前紹介した『新宿鮫』『毒猿』『屍蘭』『無間人形』『炎蛹』『氷舞』『灰夜』の続編で、『新宿鮫』シリーズの第八弾になります。

 

前作の『灰夜』が九州の都市を舞台にした番外編だったので、今作は『氷舞』の直接の続編です。『氷舞』で大きく変化した鮫島と晶の関係に今回一応の答えが出されるので、今までの関係を理解すためにもシリーズを順番に読んでおいたほうが楽しめると思います。

 

 

男の過去と現在、新宿の過去と現在

今作のテーマは二人の男の過去と現在。ひとり目は第一作の『新宿鮫』に出てきたやくざの真壁。『新宿鮫』の時に殺し損ねた中国人マフィアが、現在は真壁の所属する組と取引を行っているため、過去に因縁のある真壁はやや難しい立場に。

 

もうひとりは、今回の新宿の駐車場で受付として働く大江。ひょんなことからこの大江と知り合いになった鮫島が、独特の嗅覚で大江の過去に秘密があることに気付きます。高級車窃盗事件を追う鮫島と過去に因縁を持つ二人の男の物語は、相変わらずの面白さで700ページ近い大ボリュームですがファンなら絶対に楽しめます。

 

ただ、私が今回の物語で一番印象に残ったのは、大江の過去の因縁に絡めて語られる新宿の歴史です。

「元禄十一年、一六九八年だから、およそ三百年前だな。(管理人:中略)そこで高松喜六という浅草の商人が幕府に願い出て、信州内藤家の下屋敷の土地の一部などを割譲してもらい、『内藤新宿』を作ったのだ。ここは成りたちからして、人口の町だったわけだ。」

「なるほど。それからずっと栄えてきたのですか。」

「いや。おもしろいことに、この『内藤新宿』は二十年後の享保三年に一度、とりつぶされている。その理由は『風紀の紊乱』まるで今と少しもかわらん新宿のようだろう。」(P196)

このような成り立ちを持つ新宿。そもそもの誕生からして興味深い新宿ですが、作者があとがきで

「新宿鮫」というシリーズを書いていながら、主要舞台であるその新宿について、いったい自分はどれだけを知っているのだろう、ふと顧みたことが、この作品を書くきっかけだった。(P666)

と語っているだけあって、新宿の歴史について作中でいろいろ語られています。都庁が建つ前の新宿副都心の様子など、興味深いことが語られていて、本筋だけでなくこちらでもかなり楽しめました。

 

 

晶と桃井

氷舞』で大きく変化した鮫島と晶の関係は今作で一応の答えが出されています。二人らしい結論が出て安心しましたが、晶の出番が少なくてちょっと残念でした。

 

もうひとりのレギュラーキャラである鮫島の上司の桃井も要所、要所で鮫島の相談役になっていますが、あまり活躍はしません。二人の活躍が少ないのが今作のちょっとした不満ですね。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

このシリーズらしい内容で安定の面白さです。また、新宿そのものにスポットを当てているのも面白いです。「新宿鮫」シリーズのファンだけでなく、新宿に興味がある人も楽しんで読めるのではないでしょうかってことで、星四つです。

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