おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『仏果を得ず』 三浦しをん バランスが絶妙

   

書評的な読書感想文265

『仏果を得ず』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

三浦しをん(作家別索引

双葉文庫 2011年7月

お仕事 恋愛(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

面白い。文楽の大夫を主人公にしたお仕事小説ですが、シリアスとコメディー、ストーリーとうんちく、文楽の話と恋愛などのバランスが絶妙です。変人ぞろいの文楽関係者や芯のある女性陣など脇役たちのキャラも最高です。

 

 

あらすじ

高校の修学旅行で人形浄瑠璃・文楽を観劇した健は、義太夫を語る大夫のエネルギーに圧倒されその虜になる。以来、義太夫を極めるため、傍からはバカに見えるほどの情熱を傾ける中、ある女性に恋をする。芸か恋か。悩む健は、人を愛することで義太夫の肝をつかんでいく――。若手大夫の成長を描く青春小説の傑作。直木賞作家が、愛をこめて語ります。(作品紹介より)

 

 

文楽の太夫が主人公のお仕事小説

毎度同じみ「好きな作家で打線を組んでみた。」六番に入っている三浦しをんさんの作品。

 

今回の作品は、人形浄瑠璃・文楽の太夫が主人公の物語です。文楽は節を付けて物語を語る大夫、三味線、人形遣いの三つのパートからなる日本の伝統的な人形劇です。詳しくはyou tube などを見ていただくとわかりやすいかも。

 

物語の主人公の健は若手の大夫で、実力はあるが変人の三味線・兎一郎とコンビを組まされるところから物語は始まります。兎一郎や健の師匠・銀大夫に振り回されつつも、芸の道を深めていく健ですが、ひょんなきっかけで出会った女性に一目ぼれをしてしまいます。今回の作品は健が恋と芸の道の狭間で悩みながらも成長する青春物語といえます。

 

 

絶妙なバランス

この物語の最大の特徴はすべてにおいての絶妙なバランスだと思います。健の師匠・銀大夫の愛人騒動などは三浦さんらしいコミカルな部分と、同じ銀太夫が健に芸を伝えるシリアスな部分。健の成長物語というストーリーとあまりなじみの無い文楽の世界を垣間見せてくれるうんちく。鬼気迫るような気迫で健が芸に打ち込むかたわら、とある女性と恋に落ちてしまいます。

 

相反する要素が上手いバランスでひとつの作品にこめられているので、重すぎず、軽すぎず、飽きずに楽しく読むことができますし、なじみの無い文楽についても自然に学ぶことができました。

 

ただ、強いているなら主人公が文楽という無限の芸能の世界に挑戦する、成長物語という面が強いかもしれません。芸に対する姿勢について個人的に気になったところを一つだけ紹介します。

「きみは、自分にどれくらい時間が残っていると思う」

質問の意味がよくわからず、健は兎一郎の顔を正面から見た。兎一郎は目に苦い陰を宿し、淡々とつづけた。

「たいした病気も怪我もせず、存分に長生きしたとしても、あと六十年といったところだぞ。たった六十年だ。それだけの時間で、義太夫の真髄にたどりつく自信があるのか。(後略)」(P189)

芸の道は深いです。

 

 

脇役が最高

以前紹介した三浦しをんさんの作品『神去なあなあ日常』のときもそうだったのですが、今回の作品も脇役が最高です。プリンばかり食べていて、誰とも仲良くしない兎一郎を始め、変人ぞろいの文楽関係者。芯があってしっかりものぞろいの女性陣もいいキャラがたくさんいます。

 

その中で個人的に気に入ったキャラクターは、健が文楽を教えに行っている小学校の女生徒、ミラちゃんです。小学生ながらに文楽にはまっているのですが、熱心なのはそれだけではなく、健に気があるようです。彼女が恋愛のパートのキーになるのですが、後半でちょっとした騒動を起こす、その動機がいじましくて気に入りました。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

私にとってなじみのうすい文楽の話のため、映像を頭に浮かべるのに苦労することがありました。その意味では『神去なあなあ日常』に似ているかもしれません。この作品も映像化して欲しいです。

 

ただ、だからといって文楽だから難しそうとか、恋愛小説は苦手とか、お仕事小説はイマイチなどといって敬遠する必要は無いと思います。どんな人でも楽しめる絶妙なバランスを持った稀有な作品ってことで星四つです。

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