おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『悟浄出立』 万城目学 万城目ワールド控えめ

   

書評的な読書感想文253

『悟浄出立』(文庫)

おすすめ度☆☆(星数別索引&説明

万城目学(作家別索引

新潮文庫 2017年1月

時代 人間ドラマ(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

中国の古典を題材にした五つの短編。良くも悪くも予想外でしたが、万城目ワールドがあまり感じられず正直残念。ただ、脇役にスポットを当てるアイディアは面白いです。趙雲の話と虞美人の話がお気に入り。

 

 

あらすじ

おまえを主人公にしてやろうか! これこそ、万城目学がずっと描きたかった物語――。勇猛な悟空や向こう見ずの八戒の陰に隠れ、力なき傍観者となり果てた身を恥じる悟浄。ともに妖魔に捕えられた日、悟浄は「何も行動せず、何も発言せず」の自分を打ち破るかのように、長らく抱いてきた疑問を八戒に投げかけた……。中国古典の世界を縦横無尽に跳び、人生で最も強烈な“一瞬”を照らす五編。(作品紹介より)

 

 

中島敦にインスパイアされる

この作品を紹介するには文庫版に収録されている作品の導入エッセイである「序」を読むのが一番なので、私なりにその「序」をまとめてみます。

 

そもそも表題作の「悟浄出立」を書いたきっかけは作者が高校時代に中島敦の『わが西遊記』と題された作品に出会ったことに始まります。『わが西遊記』は「悟浄出世」「悟浄歎異」の二つの短編からなる沙悟浄を主人公にした、いわば同人作品です。続きが読みたいと渇望したがすでに中島敦は亡くなっていてそれはかないませんでした。時を経て、作者の万城目学がはじめて読み切りの短編を書くときに「永遠に読めないあの話を自分で書いてみたら?」(「序」より)と思い立ち「悟浄出立」を書いたそうです。それ以外の作品については

この一遍(管理人注「悟浄出立」のこと)を皮切りに、五年をかけて「趙雲西航」「虞姫寂静」「法家孤憤」「父司馬遷」を書いた。いずれも、私が大好きな古代中国の歴史上の出来事から題材を得たものだ。沙悟浄と同じく、主役の周囲にいる人物を中央に置き、その視点でもって主役を観察し、ひるがえって自己を掘り下げる、という心の動きを描いた。(「序」より)

と書いてあります。また、

この『悟浄出立』という作品は、私にとって特別であり、特殊でもある一冊だ。(中略)

過去の著者の作品とは大いに趣を異にする一冊かも知れぬ。しかし、これもまた万城目学という人間が表現したいと願っていた世界である。(「序」より)

なんていっていることから、この作品の特異性が見受けられます。

 

 

良くも悪くも予想外

毎度お馴染み、「今好きな作家で打線を組んでみた。」で三番に入っている万城目学さんの今回の作品。作者も自分で言っているように『鴨川ホルモー』『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』などの作品とは良くも悪くも全く違う趣があります。個人的には万城目学さんの作品といえば、妄想と言っていいほどの想像力を膨らました現実とファンタジーが溶け合った作品で、一言でいうと壮大なホラ話です。

 

しかし、今回の作品は『西遊記』や『三国志』中国の古典を題材にした物語で、今までのように現代を舞台にした物語ではありません。内容も『西遊記』をもとにした「悟浄出立」以外はファンタジー要素のない寓話的な話になっています。高校の古文や漢文の授業で習った文章を彷彿とさせます。

 

個人的には万城目ワールドともいわれる荒唐無稽なホラ話が大好きなので、今回の作品は期待していたもとは違っていてかなり残念でした。ただ、脇役にスポットを当てて古典を再構築するアイディアは面白いと思いました。

 

 

「趙雲西航」「虞姫寂静」

個人的に気に入ったには「趙雲西航」「虞姫寂静」の二つの作品。「趙雲西航」は『三国志』に出てくる趙雲にスポットを当てた物語。『三国志』のなかでも屈指の人気キャラである趙雲ですが、実は劉備たち三兄弟や諸葛孔明に対して微妙に屈折した気持ちを抱いている設定で描かれています。この趙雲の屈折した心理にすごく共感できるので気に入りした。

 

「虞姫寂静」は劉邦と共に秦を滅ぼした、項羽の寵姫・虞美人の話。劉邦軍に囲まれ滅亡寸前の項羽と虞美人のやり取りが虞美人視点で描かれているのですが、互いに相手を思いやるあまりすれ違う二人がドラマティックで切ないです。項羽の不器用さと虞美人の一途さが印象的です。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

作者思いのこもった作品で、脇役にスポットを当てるアイディアは面白いのです。ただ、私の好きな万城目ワールドがあまり感じれなかったので残念ながらおすすめ度は星二つです。

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