おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『邂逅の森』 熊谷達也 ダブル受賞は伊達じゃない

   

書評的な読書感想文252

『邂逅の森』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

熊谷達也(作家別索引

文春文庫 2006年12月

人間ドラマ お仕事(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

読後に良い読書をしたと思える作品。面白い。何はともあれマタギの狩猟の様子が、リアルで迫力があります。これだけでもおすすめですが、マタギの村や鉱山の街などが、時代の変化にさらされる様子の描写も秀逸です。

 

 

あらすじ

秋田の貧しい小作農に生まれた富治は、伝統のマタギを生業とし、獣を狩る喜びを知るが、地主の一人娘と恋に落ち、村を追われる。鉱山で働くものの山と狩猟への思いは断ち切れず、再びマタギとして生きる。失われつつある日本の風土を克明に描いて、直木賞、山本周五郎賞を史上初めてダブル受賞した感動巨編!(作品紹介より)

 

 

史上初の直木賞、山本周五郎賞ダブル受賞

今回の作品は、史上初めて直木賞と山本周五郎賞を同時に受賞した作品です。物語はマタギとして山と共に生きた富治という男の一生を描いた物語になっています。マタギとは山に入って熊やカモシカの狩猟することで生活する人々のことです。

 

丁寧に取材されたマタギの狩の様子や、大正から昭和初期にかけての時代の変化による山の生活の変動が描かれていて、読み終わった後に良い読書をしたなと思える作品です。

 

 

迫力の狩猟

物語の最大の見所は、熊やカモシカを狩るマタギの狩猟の様子を描いたシーンです。獲物を探して冬山を移動し洞窟で夜を明かす様子や、冬眠中の熊の巣穴から熊を追い出すシーン、そしてもちろん熊やカモシカをしとめる様子など、迫力、緊張感、リアリティーがものすごく、全く体験したことのない冬山の狩を自分もしているような気になりました。

 

かなり丁寧に取材したであろうこの狩猟シーンを読むだけでも、この本を読む価値があると思えるほど素晴らしいシーンです。特にラストの狩猟のシーンは圧巻で、読み終わった後にしばらくは何も考えられないほど圧倒されました。

 

 

時代の変化

主人公の富治は、はじめはマタギとして生活していますが、地主の娘と身分違いの恋をしたために村を追われ鉱山で働きます。その後、狩猟の感触が忘れられず再びマタギとして生きることになります。

 

このように物語は富治の一生を描いているのですが、富治が生きた大正から昭和初期は日本という国が大きく変化した時代です。戦争によって金属の需要が増え鉱山が隆盛したり、戦争の終結により一気に鉱山が下火になったりします。また、ロシアなど寒い国と戦争をするために必要な防寒用の毛皮が高騰します。他にも、乱獲により獲物の数が減ってしまったり、カモシカが天然記念物になったため駆ることができなくなったりもします。

 

物語ではこうした変化が富治や山に生きる人々の生活にも影響を与える様子がしっかり描かれていて、興味深く読めました。マタギが滅び行く運命にあることを受け入れる富治の気持ちを考えると切なくなります。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

大衆文学の主要文学賞をダブル受賞したのは伊達ではありません。迫力の狩猟シーン、近代化の波にさらされるマタギの運命など見所が満載の良質の物語ってことで、おすすめ度は星四つです。

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