おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『土を喰う日々』 水上勉 山岡士郎絶賛

   

書評的な読書感想文242

『土を喰う日々 ―わが精進の十二ヶ月―』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

水上勉(作家別索引

新潮文庫 1982年8月

エッセイ 料理(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

禅寺の食事係時代の話が何とも味わい深いです。禅の教えや名言など、この部分だけでも読む価値ありです。また、季節の食材を使った精進料理は、作者の文章の巧みさもあって派手さはないけどとてもうまそうです。空腹注意。

 

 

あらすじ

著者は少年の頃、京都の禅寺で精進料理のつくり方を教えられた。畑で育てた季節の野菜を材料にして心のこもった惣菜をつくる――本書は、そうした昔の体験をもとに、著者自らが包丁を持ち、一年にわたって様様な料理を工夫してみせた、貴重なクッキング・ブックである。と同時に、香ばしい土の匂いを忘れてしまった日本人の食生活の荒廃を悲しむ、異色の味覚エッセーでもある――。(作品紹介より)

 

 

『美味しんぼ』で山岡士郎が絶賛

今回の作品は直木賞作家である水上勉さんが、子供のころに禅寺で食事係をしていた経験を生かして、季節の野菜を工夫して精進料理を作り、また、食材や料理にまつわるさまざまなことを十二ヶ月にわたって書いたエッセイ集です。

 

今回は再読なのですが、そもそもこの本を知ったきっかけは、料理漫画の金字塔『美味しんぼ』の33巻で主人公の山岡士郎が「現在チマタにあふれている料理関係の本で、読む価値があるのは・・・」といって選んでいたためです。「価値」というものをどう考えるかにもよりますが、この作品が食事に向き合う心構えなど単なる情報以上のまちがいなく「価値」のある内容が書かれています。なので、単なる情報としてのレシピ本としてはあまりおすすめできません。

 

ちなみに、『美味しんぼ』でこの「土を食う日々」を直接取り上げたのは33巻のエピソードのみですが、山椒の木から作ったすりこぎの話など、影響を受けていると思われる部分はほかにもあるので、探してみるのも面白いかもしれません。

 

 

食事と禅

上にも書きましたが、作者の料理のベースは子供のころに禅寺で食事係をしていたころになります。したがって、作中には子供のころにお師匠さんから教わった禅の教えが随所に書かれています。一番の教えは、「品物が上等だとか、粗末だとか言うことを問題にするな」(P72)ということなのですが、私は工夫を凝らしてどんなものでも無駄なくおいしく調理しなさい、受け止めました。

 

その象徴が、上の『美味しんぼ』でも取り上げられていた、ほうれん草のおひたしです。普通なら捨ててしまう根っこの部分を、しっかりと丁寧に洗い、葉っぱよりも長めに茹で、柔らくなったのを細かく刻んでおひたしにまぜます。この料理、無駄がないだけでなく根っこがアクセントになり味も良くなります。

 

こういった風に料理をしたり、食材を向きある心構え的な禅の教えが随所にとても解りやすく解説してあり、とても味わい深いです。この部分だけでも読む価値あると思います。

 

また、禅の教えではありませんが料理に関する名言がいくつもありました。例えば、

「承弁や(管理人注、作者のこと)。また、お客さんが気やはった。こんな寒い日は、畑に相談してもみんな寝てるもしれんが、二、三種類を考えてみてくれ。」(P12)

「畑と相談する」なんて、素敵過ぎます。他にも

ここで一日に三回あるいは二回はどうしても喰わねばならぬ厄介なぼくらのこの行事、つまり食うことについての調理の時間は、じつはその人の全生活がかかっている一大事だといわれている気がするのである。

といった、印象に残る名言が色々ありました。

 

 

季節の料理

料理にまつわるエッセイが大部分なので、レシピ本としては分量も書いていませんし、あまりおすすめできないかもしれません。ただ、作中で紹介されている季節の材料を使った料理は、さすが直木賞作家だけあって巧みな文章で表現されていて、とにかくうまそうです。例えば、淡雪豆腐なるものについては

寒天を水に二時間ほどもどし、よくしぼって、水二合を加えて煮溶かし、砂糖を少々入れてとろ火で糸を引くぐらいまで煮てから、裏ごしにかけておく。さて豆腐の方は、ばらばらにつかみほぐして、いり豆腐にして裏ごしにかけ、まえの寒天をそそぎ入れながらよくませ、弁当箱か重箱をよく水でぬらしておいたのへ入れて、流し固める。これを角切りに切って、皿にもり、わさび酢をかけてもいいし、醤油でもいい。わさびをよく溶いておくことが肝要だが、つめたい感触はまことに涼味となる。(P149)

なんて書かれています。文章のみで書かれているのにわかり易く、料理のイメージが頭に浮かんでおなかが減りました。精進料理なので派手さはありませんが、たけのこ料理や田楽などどれもおいしそうです。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

禅の話は、身近な食事が題材なのでとてもわかり易く、味わい深いです。また、季節の材料を使った精進料理はどれもおいしそうです。料理する人はもちろん、料理をしない人も「読む価値がある」本ってことで星四つです。

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