おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『天地明察』 冲方丁 日本初の暦の話

   

書評的な読書感想文241

『天地明察 上下』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

冲方丁(作家別索引

角川文庫 2012年5月

時代 人間ドラマ(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントをほぼ百文字で

これは面白い。主人公が改暦に挑むまでの様子が丁寧に描かれて、ことが成ったときには胸が熱くなりました。また、主人公に影響を与える脇役たちが魅力的なのも良いです。江戸時代の改暦が予想以上の巨大事業なのに驚きました。

 

 

あらすじ

徳川四代将軍家綱の治世、ある「プロジェクト」が立ちあがる。即ち、日本独自の暦を作り上げること。当時使われていた暦・宣明暦は正確さを失い、ずれが生じ始めていた。改暦の実行者として選ばれたのは渋川春海。碁打ちの名門に生まれた春海は己の境遇に飽き、算術に生き甲斐を見出していた。彼と「天」との壮絶な勝負が今、幕開く――。日本文化を変えた大計画をみずみずしくも重厚に描いた傑作時代小説。第7回本屋大賞受賞作。(上巻作品紹介より)

 

 

第七回本屋大賞受賞作

2010年の第七回の本屋大賞の受賞作品です。物語は江戸時代前期の天文学者で、日本人の手で作られた初の暦である貞享暦の製作者、渋川春海の半生を描いています。特に、囲碁棋士として江戸城に勤めていた春海が、天文学にのめりこむ若き日の出来事が詳しく描かれています。

 

さまざな人の影響を受けながら、800年も前に作られいたため完全にずれてしまっている暦を正しいものに改めるために立ち上がる様子が丁寧に描かれていて、やっとことがなったときは胸が熱くなりました。天文学の話ですが専門的なことはかかれていなくて、むしろ主人公の渋川春海の青春時代の成長物語なので、天文学はあまり得意ではない私でも十分に楽しめました。

 

また、本の最後のページに「本書は史実をもとにしたフィクションです。」と但し書きがあるように、重大な出来事はともかく、細かい部分は史実と異なることが書いてあります。個人的には物語として楽しめたので問題ないのかと思います。

 

 

魅力的な脇役たち

この作品の特徴として、春海を天文学に導いたり、その活動をサポートすることになる脇役が(場合によっては主人公よりも)魅力的なことです。どんな数学の問題でもたちどころにといてしまう和算の大天才・関孝和やマイペースで強引だけど全く憎めないキャラクターで「希代の“風雲児”(下巻P69)」こと神道家・山崎闇斎など歴史的な人物が脇を固めているのですがどのキャラもとても魅力的です。

 

そのなかで私が気に入ったキャラクターは、若い春海とともに幕府の命令で各地で星の観察をすることになった、建部昌明62歳と伊藤重孝57歳のおじいちゃんコンビです。この二人は春海にとって天文学の師匠的存在なのですが、決して偉ぶることなく好奇心旺盛です。

 

春海から算術の天才・関孝和のことを聞けば三十歳下の関にも是非弟子入りしたいといったり、答えのない問題、「誤問」を作ってしまったことで悩む春海には

「うむ、見事な誤問よ」(中略)

「羨ましい限りでございますねえ。精魂を打ちこんで誤謬を為したのですからねえ」(P243,244)

なんて言っていて、学問に対して真摯で、柔軟な考えを持つ魅力的な人物です。

 

ちなみに、タイトルにもなっている『天地明察』という言葉は伊藤が始めて口にします。

「ときに惑い星などと呼ばれますがねえ。それは人が天を見誤り、その理を間違って理解してしまうからに過ぎません。正しく見定め、その理を理解すれば、これこの通り」(中略)

「天地明察でございます」(上巻P252)

いい言葉かなって思います。

 

 

巨大事業

物語は古すぎて実際と外れてしまっている暦を正しく直すお話なのですが、実はこの改暦という作業は広範囲に影響を与える巨大事業です。今で言うところのカレンダーを印刷する仕事ではなく、宗教や政治、文化にまで影響を及ぼす巨大事業になります。特に、日にちを定めるということは、儀式などの日程を牛耳ることになり、その権威は計り知れません。また、頒暦(いわゆるカレンダー)を全国に発売することにもなるので、その利益は莫大なものになります。

 

事業が巨大なため反発や妨害も多く、そういったものと戦う春海の姿も物語の魅力になります。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

とりあえず面白いです。前半は自分に自信がない春海は改暦に立ち向かう決意を固める成長物語、後半は改暦という巨大事業を前に悪戦苦闘する春海を描いた人間ドラマとして楽しめますってことで星四つです。

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