おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『武士道シックスティーン』 誉田哲也 警察物だけじゃない

   

書評的な読書感想文185

『武士道シックスティーン』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

誉田哲也(作家別索引

文春文庫 2010年2月

青春 スポーツ(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

勝利至上主義と自己の成長、真逆な二人の女子高生の剣道物語。癖の強い性格が初めは気になりますが、徐々にかかわいく思え、心配したり応援したりしてしまいます。剣道の場面も案外楽しめるし、次回作も読みます。

 

 

あらすじ

武蔵を心の師とする剣道エリートの香織は、中学最後の大会で、無名選手の早苗に負けてしまう。敗北の悔しさを片時も忘れられない香織と、勝利にこだわらず「お気楽不動心」の早苗。相反する二人が、同じ高校に進学し、剣道部で再会を果たすが……。青春を剣道にかける女子二人の傑作エンターテインメント。(作品紹介より)

 

 

『ストロベリーナイト』と『ジウ』の作者の青春ストーリー

作者の誉田哲也さんは以前紹介した『ストロベリーナイト』や『ジウ』などの警察物で有名な作家さんですが、今作は女子高生が主人公の青春ストーリーです。

 

主人公は二人いて、それぞれの主人公が交互に語り手となって物語を進めます。主人公の一人、香織は中学の剣道の全国大会で二位なった強豪ですが、中学最後の試合で無名の選手に負けてしまい、彼女を追う形で高校進学先を決めます。尊敬する人は宮本武蔵でとにかく勝利に貪欲です。ちょっと極端な性格で、例えば徒競走などは

だいたい、並んで走って勝敗を決めるという競技自体に、あたしはどうにも馴染めない。そんな面倒なことをするくらいなら、スタート前に全員叩きのめしてしまえばいい。そうしたら、悠々と歩いてゴールできる。それが戦いというものだろう。兵法であろう。

ま、別にどうでもいいけど。(P72)

なんて考えています。ちょっとこじらせていて、部活でも当然浮いた存在です。

 

もう一人の主人公の早苗は日本舞踊から剣道に転向した変わり者で、中学時代の最後の試合でやっと初勝利。勝負よりも自分がいかに成長したかを確かめたくて剣道をやっているタイプ。勝負については

私にしてみれば、逆になんでみんな、そんなに勝敗に拘るんだろう、ってことになる。剣道は勝敗を争う競技ではなく、心身の鍛錬と、精神と人格の修養が目的であるって、本にだって書いてある。

どっちかっていうと、私の方が本道じゃない?とすら思う。

まあ、わざわざ口には出さないけど(P65)

なんて考えています。

 

こんな二人が、反発したり仲直りしながら、成長していく物語です。

 

 

癖のある性格が可愛く思えてきます

なかなか癖のある対照的な二人が主人公のこの物語。たぶん、誉田哲也ファンならピンと来るものがあると思うのですが、そう、この構造とキャラクター造詣が『ジウ』にとても良く似ています。『ジウ』の基子と美咲が、まんま香織と早苗の関係です。ただ、今回は女子高の剣道部が舞台なので、『ジウ』では見られなかった対照的な二人の友情なんかも見れるのかなって、予想しながら読みました。

 

特に香織がそうなんですが、極端な性格すぎて初めはなかなか受け入れ難いのですが(私は早苗も実は共感しにくかったです)、徐々に人間らしいというか、高校生の女の子らしい部分も見えてきていつの間にか可愛く思えてきます。試合のシーンなんかでは心配したり応援したりしていますが、このあたりの感情移入のしやすさも『ジウ』とはちょっと違うかもしれません。

 

 

剣道シーンも楽しめます

私は体育の授業でちょっとやったことがあるだけで剣道経験者でもなんでもないんですが、剣道の試合のシーンも案外楽しめました。

見える。さっきより全然よく見える。コテは抜いて、メンは足で捌いた。相手の竹刀はかすりもしなかった。追いかけてメン入れちゃおうか、と思ったけど、すぐ向うも手元を上げるだろうからドウにしよっかな、でもちょっと調子に乗ってる気がしたから、やっぱりやめて構えた。(P220)

中盤に出てくる試合のシーンなんですが、それまでに初心者にも分かるように説明があるので案外上の文章でも頭の中に情景が浮かびました。

 

剣道なんてしならないからといって、毛嫌いして読まないのはもったいないかなって思います。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

主人公は女の子二人ですが、周りのおじさんたちがいいキャラぞろいです。二人の父親をはじめ、顧問や同情の先生、近所の剣道用品店の親父など。個人的に印象に残ったのは、剣道用品店の親父の考え方。香織と早苗の剣道に対する取り組み方は似ていて、勝負に拘る香織は他人と、自己の成長に拘る早苗は過去の自分と比べているのだと。親父はこの比べるという考え方自体は否定はしないが、もっと別の考え方もあるんじゃないかと言います。間逆に見えた剣道の取り組み方が実は似ていたなんて、私には無い発想だったので印象に残りました。

 

上のようにサブキャラなんかもなかなか奥が深いのですが、何よりベタな青春物として面白く、次回作も絶対に読むってことでおすすめ度は星四つ。

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