おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『理由』 宮部みゆき 満場一致で直木賞

   

書評的な読書感想文172

『理由』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆☆(星数別索引&説明

宮部みゆき(作家別索引

朝日文庫 2002年9月

ミステリー 家族(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

これは面白い。殺人事件のルポルタージュの体裁で、幾人もの関係者の話をつなぎ合わせることで、ちょっとずつだけど確実に事件の真相と物語のテーマが明らかになる手法が秀逸。満場一致で直木賞受賞もうなずけます。

 

 

あらすじ

東京都荒川区の超高層マンションで起きた凄惨な殺人事件。殺されたのは「誰」で「誰」が殺人者だったのか。そもそも事件はなぜ起こったのか。事件の前には何があり、後には何が残ったのか。ノンフィクションの手法を使って心の闇を抉る宮部みゆきの最高傑作がついに文庫化。(作品紹介より)

 

 

満場一致の直木賞受賞作

個人的には女性作家では当代一と言って差し支えないと思う、宮部みゆきさんの直木賞受賞作品。

 

重松清さんが解説の冒頭で

この重厚な小説とともに至福の時間をすごしてきたばかりのひとに、ここでなにを語ればいいのか――と、半ばふてくされつつ、思う。

あるいは、いままさに『理由』を読み始めようとしている人に対しては、物語の冒頭はあちらです、とただ黙って掌で指し示すにまさる前口上があるだろうか――へっぽこな解説子は自らの任を放擲したくてたまらない気分なのである。(P621)

と言わしめ、直木賞選考会の最終投票で満票を得たこの作品。面白いです、とにかく。

 

 

殺人事件のルポルタージュ

物語はバブルのころに建てられた超高層マンションの一室で起こった、一家四人の殺人事件を描いています。ただ、その描き方が変わっていて、事件解決後に事件関係者の証言を集めたルポルタージュの体裁で描かれます。

 

この手法が秀逸で、事件関係者の家族関係や生い立ちなど事件に関係なさそうなことまで細かく描写するので、初めのうちは読んでいて話が進まないまどろっこしさを感じます。ただ、読み進めるうちにほんのちょっとずつですが、確実に事件の真相と物語のテーマを浮かび上がらせます。

 

例えるなら、大きな大きな丸太をちょっとずつノミで削って行くうちに、はじめは何を作っているかまったくわからなかったのが、徐々に何を作っているのか分かってくる感覚といえます。

 

600ページ以上の大ボリュームですが、いつの間物語の真相とテーマが気になって読む手を止められなくなってしまうでしょう。

 

 

テーマは家族

物語のテーマは家族です。物語の中には幾つもの家族が描かれていて、どの家族も私たち読者が他人事ではない身近な問題を抱えています。その問題をどう乗り越えるか、どう乗り越えられないのか、家族の理想のあり方は?そういったことが物語のテーマとして浮かび上がってきます。

 

物語の舞台になる高層マンションはバブルのころに計画され、バブル崩壊後に合わせて完成します。ほぼ同時期に、年号も昭和から平静に変わります。時代の変遷とともに家族のあり方も変わっていくのですが、物語の中に幾つもの家族をリアルに描き出すことで、時代とともに変わる家族関係の功罪を浮かび上がらすことが作者の狙いなのかなと私は思いました。

 

蛇足ですが、以前紹介した家族をテーマにした宮部さんの作品『日暮らし』と読み比べてみるとかなり楽しめるかなと思いました。『日暮らし』の方がだいぶ後の作品ですが、血のつながりに対する考え方に違いが見られ興味深いです。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

重松清さんの解説のまとめはこうなっています。

だから、もう頭でっかちの無駄口はやめておこう。

既読の皆さんにはお気に入りの箇所をいま一度読み返していただくために、未読の皆さんには一刻も早く本文に向かっていただくために、解説子の果たす最後の務めは、やはりただ黙って頭を垂れ、掌で指し示すこと以外にはないだろう。

物語の冒頭はあちらです――。(P630)

 

私もごちゃごちゃ言わずに一言だけ、おすすめ度は最高評価の星五つです。

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