おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『一瞬の風になれ 第三部』 佐藤多佳子 部活の楽しさてんこ盛り

   

書評的な読書感想文164

『一瞬の風になれ 第三部 ドン』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

作者名(作家別索引

講談社文庫 2009年7月

青春 スポーツ(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

自分も春高陸上部になった気持ちで読めます。新二や連の努力が実を結ぶ瞬間は感動的で、リレーメンバーの努力と葛藤が描かれているので、試合のシーンでは気持ちを入れて応援してしまいます。ザ・爽やか青春小説。

 

 

あらすじ

いよいよ始まる。最後の学年、最後の戦いが。100m、県2位の連と4位の俺。「問題児」でもある新入生も加わった。部長として、短距離走者として、春高初の400mリレーでのインターハイ出場を目指す。「1本、1本、走るだけだ。全力で」。最高の走りで、最高のバトンをしよう――。白熱の完結編。(作品紹介より)

 

 

『一瞬の風になれ』シリーズ第三弾

以前紹介した『一瞬の風になれ 第一部』『一瞬の風になれ 第二部』の続編で、2007年の本屋大賞受賞作です。

 

毎回書いていますが、この作品、一作目がヒットしたから続編が出たわけではなく初めから三部作なので、必ず『第一部』『第二部』を読んでからこの『第三部』を読むべきでしょう。

 

今回、主人公の新二は三年生になりました。引退をかけたインターハイ予選が始まり、陸上部としての集大成の年です。

 

すでに、二冊読んでいて新二とライバルの連のがんばりは良くわかっているし、他の陸上部のメンバーもすっかりお馴染みになっているので、なんだか自分も春高陸上部のメンバーになった気分で読み進められました。

 

 

努力が実を結ぶ瞬間

この話を読んでいて陸上って結構残酷だなって思うことがあります。タイムや飛距離でスパッと実力が分かってしまうし、試合も言い訳の仕様も無いほどはっきりと結果が出てしまうので。

 

ただ、その分自己ベストの記録が出ればうれしいし、格上の選手に勝てた時など堪らないものがあると思います。物語でも、新二も連も努力の成果が数字で現れてきて、それは球技(私はバレーボール部でした)では得られない感動がありました。

 

 

陸上の花形・リレー

物語は新二と連の個人種目である100㍍走のほかに、100㍍×4リレーにもスポットを当てています。バトンパスをミスってしまうと一瞬で終わってしまう緊張感、メンバー選抜の難しさや葛藤、全員の気持ちが合わさった時の高揚感と個人種目には無い楽しさや辛さが描かれています。

 

上にも書きましたが、春高陸上部に入っているつもりで読んでいるので、試合のシーンでは陸上競技場のスタンドで他の部員と一緒になって応援している気分を味わえました。やっぱり団体競技のほうが力が入った応援をしてしまいます。

 

 

物足りなさも

第二部』のまとめで、物語の種が芽吹いた話を書きました。その芽とは新二の陸上と恋、あとは兄や母親との関係です。陸上の話に関しては余すことなく描かれていますが、特に家族の話は物足りなさを感じました。

 

怪我をした兄との距離感や、兄に付きっ切りに(少なくとも新二と読者には)見える母親関係についてはもっと突っ込んで描いても良かったのではないかと思います。

 

ただ、これは私の勝手な推測ですが、作者の意図としては、あえて挫折や葛藤などの負の部分はなるべく描かないようにしているのかと感じました。陸上の部分についても、新二やサブキャラたちの葛藤や挫折(レギュラーになれず試合にすら出れない事や予選で敗退してしまう事など)を描いたほうが、リアリティーというか物語の深みは確実に出ると思いますが、詳しくは描かれていません。

 

けれど、あえてそれを書かないことで、物語に透明感というか、これでもかというほどの爽やかさが生まれています。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

以前紹介した、『サマータイム』『しゃべれどもしゃべれども』と同じく、佐藤さんらしい爽やかな読後感の作品です。物語のキャラクターに感情移入するのではなく、自分も登場人物の仲間になって気持ちになれる珍しい作品で、オリンピックイヤーに読むにはぴったりかなって思う、かなりのおすすめ作品です。

 

ただ、好みの問題もありますが、もっと掘り下げてほしいところもあったので、残念ながらおすすめ度は星四つです。

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