おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『柔らかな頬』 桐野夏生 どう生き、どう死ぬか

   

書評的な読書感想文162

『柔らかな頬 上下』(文庫)

おすすめ度☆☆☆(星数別索引&説明

桐野夏生(作家別索引

文春文庫 2004年12月

サスペンス 人間ドラマ(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

子供を誘拐された母がどう生き、末期がんの男がどう死ぬかがテーマ。不倫はするは、その後も家族を省みない主人公に共感できませんが、未来が見えない絶望感は伝わります。さて私は明日からどう生きようか。

 

 

あらすじ

カスミは、故郷・北海道を捨てた。が、皮肉にも、北海道で幼い娘が謎の失踪を遂げる。罪悪感に苦しむカスミ。実は、夫の友人・石山に招かれた別荘で、カスミと石山は家族の目を盗み、逢引きを重ねていたのだ。カスミは一人、娘を探し続ける。4年後、元刑事の内海が再捜査を申し出るまでは。話題の直木賞受賞作ついに文庫化。 (上巻作品紹介より)

 

 

テーマはどう生き、どう死ぬか

『東京島』や『OUT』などで有名な桐野夏生さんの直木賞受賞作。

 

主人公のカスミは夫の友人・石山と不倫をしてます。石山はカスミの家族を別荘に招待し、お互いの家族の目を盗んで、二人は密会。カスミは「石山とこのまま生きていけるなら子供を捨ててもいいとまで(上巻P103)」思います。

 

この直後の、カスミの娘が神隠しのごとく行方不明になります。一瞬でも子供を捨ててもいいと思ったカスミはその罪悪感のためもあり、見つからない子供を捜すことに、家庭を顧みず熱中します。このときのカスミの心情を表す部分を引用します。

有香(管理人註:行方不明の子)を探すことは、カスミが生きることと同義だった。将来の何かのために待つ、何かのために我慢する。カスミは未来を見通して準備することなどできない。(上巻P165)

夫や行方不明にならなかったもう一人の娘との溝は深まるばかりです。

 

四年後、元刑事で末期がん患者の内海が有香探しの協力を申し出ます。その理由をカスミはこう分析します。

「あの人(管理人註:内海)はきっと、若くして死んでいくことに耐えられないのよ。承知している顔をしているけど、心の中では不公平だと思っているし、怖がっている。だから、テレビを見て私に連絡してきたの。(中略)あの人は私が現実と折り合えずに戸惑っている様を見たかったのよ。(上巻P354)」

後半では、カスミを初め事件関係者がどう現実と折り合って生きていくかと、内海を初め何人かの人物がどう死ぬかが描かれます。

 

 

共感できない主人公と共感できる脇役たち

この物語、主人公にちょっと共感しにくいところがありました。娘を含め家族がいるそばで不倫をしたり、誘拐された子供を捜すのに熱心になるあまり家庭をないがしろにする様子は、ちょっと理解しにくいです。

 

一方で、他の事件関係者が失踪事件で混乱しつつも、時と共に現実と折り合っていく様子の方は常識的というか、共感できます。そのため、上に書いたように現実と折り合えない主人公の絶望感や孤独感はよりいっそう強く伝わりました。

 

物語の後半では、徐々に内海の死が迫る一方で、カスミは現実を受け入れ未来に生きていこうとする様子が描かれるのですが、考えさせられるものがありました。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

重いテーマに反して読みやすく、失踪事件がさまざまな人の内面に影響を与えるのがしっかり描かれていて、面白かったです。

 

ただ、物語のラストにかなり賛否が分かれそうです。物語のテーマを人はどう生きどう死ぬか、と考えるとこのラストも納得できなくは無いのですが、少なくとも読者の期待した答えにはなっていない気がします。

 

個人的には、もっとはっきりしたラストを書くか、何も書かないかの方が良かったと思うのと、主人公のカスミがあまりに自己中心的に見え、共感しにくいので、おすすめ度はちょっと減点して星三つです。

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