おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『幻色江戸ごよみ』 宮部みゆき やっぱりすごい

   

書評的な読書感想文149

『幻色江戸ごよみ』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

宮部みゆき(作家別索引

レーベル 1998年9月

時代 人間ドラマ(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

江戸の庶民の感情が丁寧に描かれていて、ほっこりしたり、切なかったり、怖かったり。怪談やバットエンドもあるのですが、読後感は思いの外、良いです。また、ちょっとした表現の切れ味が素晴らしく、感心します。

 

 

あらすじ

盆市で大工が拾った迷子の男の子。迷子札を頼りに家を訪ねると、父親は火事ですでに亡く、そこにいた子は母と共に行方知れずだが、迷子の子とは違うという……(「まひごのしるべ」)。不器量で大女のお信が、評判の美男子に見そめられた。その理由とは、あら恐ろしや……(「器量のぞみ」)。下町の人情と怪異を四季折々にたどる12編。切なく、心暖まる、ミヤベ・ワールドの新境地!(作品紹介より)

 

 

12の短編

以前紹介した『本所深川ふしぎ草紙』が七不思議をテーマにした七つの物語でしたが、今作は、12の短編からなっていて「江戸ごよみ」からも分かるように、それぞれが一年の月に対応しています。

 

『本所深川ふしぎ草紙』が怪談めいた話が元になっていますが、今作は結構怖い怪談だけでなく、もののけの類はまったく出てこない話もあります。また、ハッピーエンドもありますが、多くは切なかったり、悲しい結末になっています。

 

ただ、読後感は思いの外、良いです。たぶん、悲しい結末ではあるけど、貧しい庶民の心の底にたまったやるせない感情が昇華されるからなのではないかと思いました。

 

 

「神無月」

ある岡っ引きが居酒屋でこんな話をします。

「それもそうだろうと思うぜ。俺だって、毎年神無月にただ一度だけ押し込みを働いて、あとの一年はなりをひそめてている――そんな律儀な賊はいったいどんな野郎だと、不思議でしょうがねえんだからな」(P261)

この岡っ引きの居酒屋での会話と交互に、押し込み強盗の様子も描写されます。この押し込みの強盗のパートが切なくやるせなくてぐっと来ます。

だが、おめえを幸せにしてやるためには金が要る。その金を工面するのに、おとっちゃんは、神様がよろこんではくれそうにねことをする。神様に見られて困るようなことをする。(P273)

切々と語る押し込み強盗の独白が切ないです。

 

こうやってあらすじに書くと何てこと無い内容ですが、12編の短編で一番の傑作がこの「神無月」だと思います。

 

 

表現の切れ味

なんてことのない例えや、描写が切れ味抜群なのはさすが宮部みゆきさんかなって思うことがしばしばありました。

小声で何やら楽しげに話をしているおたかとおゆう(管理人註:主人公の妻と娘)の顔をぼんやり見つめ、一日に一杯だけと決めている冷や酒をなめ、そしてときどき、こっくりこっくりと居眠りをした。眠くはあるが、横になって寝てしまうには惜しい。この心持ちの良さときたら、公方さまが、お城をかたにするから売ってくれと言ってきたって売るわけにはいかねえな……そんなふうに思いながら。(P125)

個人的にうまいなあって思った表現です。シチュエーションは違えどだれでも、「寝てしまうには惜しい」と思う体験をしたことがあると思います。そこに「公方さまがお城をかたにするから売ってくれと言ってきたって売るわけにはいかねえな」と、庶民のプライドが見える表現で価値を例えているのが秀逸なのかなって思います。

 

「公方さまが、お城をかたにするから」なんて表現、中々出てこないです。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

感想を書いていて思ったのですが、『本所深川ふしぎ草紙』の時とほとんどおなじようなことを書いているなと。実際書かれた時期も近いですし、内容も似ています。なので、片方を読んで面白かった人はもう一方も楽しめると思います。

 

『本所深川ふしぎ草紙』と同等かそれ以上に面白いってことで、星四つです。

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