おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『算法少女』 遠藤寛子 江戸時代の浜村渚?

   

書評的な読書感想文145

『算法少女』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

遠藤寛子(作家別索引

ちくま学芸文庫 2006年8月

時代 お仕事(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

実在の和算書から着想を得た江戸の町娘が主人公の物語。和算の問題はほぼ出てきません。若年層向けの読み物ですが、レベルが高かったはずの和算が、西洋の数学に遅れをとったのかよく分かり、考えさせられます。

 

 

あらすじ

父・千葉桃三から算法の手ほどきを受けていた町娘あきは、ある日、観音さまに奉納された算額に誤りを見つけ声をあげた……。その出来事を聞き及んだ久留米藩主・有馬侯は、あきを姫君の算法指南役にしようとするが、騒動がもちあがる。上方算法に対抗心を燃やす関流の実力者・藤田貞資が、あきと同じ年頃の、関流を学ぶ娘と競わせることを画策。はたしてその結果は……。安永4(1775)年に刊行された和算書『算法少女』の成立をめぐる史実をていねいに拾いながら、豊かに色づけた少年少女むけ歴史小説の名作。江戸時代、いかに和算が庶民の間に広まっていたか、それを学ぶことがいかに歓びであったかを、いきいきと描き出す。(作品紹介より)

 

 

江戸時代の『算法少女』

『算法少女』という作品はもともと、1775年に出版された和算書。つまり、江戸時代の数学の本です。かわいらしい名前からも分かるように、少女が編纂にかかわっているのですが、和算本で女性がかかわっているのは、他に例が無くこの本だけだそうです。

 

作者は昭和の初めまで不明でしたが、千葉桃三という医者で、娘のあきが手伝って作られたそうです。

 

今回紹介する遠藤寛子さんが書いた『算法少女』は江戸時代の和算書の成立に着想を得た、町娘・あきを主人公にした成長物語になっています。

 

 

和算対決

物語は、とあるきっかけで主人公・あきの和算の実力が、大名の殿様の耳に入り、その殿様の娘の教育係にあきを据えようという話が持ち上がります。ただ、ここで面白くないのは、江戸で和算の一大派閥を作っていた関流の実力者・藤田貞資。藤田は対抗者として、関流和算にすぐれた少女を推薦します。そこで、二人はお姫様の教育係を巡って和算対決をすることになります。

 

というのが、物語の本筋です。ただ、貧しい人々の教育事情や、江戸のお祭りの様子など江戸時代の風俗がうまく描かれていたり、主人公を監視しているかのような謎の武士が出てきてサスペンス的な要素があったりと、いろいろ飽きさせない物語になっています。

 

ちょっとだけ残念なのは和算を題材にした物語なのに、和算の問題は数問しか出てこず、解き方の解説も無いことです。児童向けなので仕方がないかもしれませんが、その辺が前回紹介した『浜村渚の計算ノート6さつめ』の「浜村渚シリーズ」と違うところかもしれません。ただ、数学のあまり触れていない分、数学が苦手な人が読んでも楽しめます。

 

ちなみに勝手な想像ですが、今作の主人公あきと浜村渚は絶対仲良しになれると思います。年下なのに、あきの方が断然大人ですが。

 

 

和算が衰退したわけ

大人でも十分楽しめますが、元々は児童向けの本書、いろいろなテーマが内包しています。主人公が貧しい家の子供たちに和算を教えるところなどは、元教育者の作者の考えが読み取れます。

 

そのいった中で、個人的に一番心に残ったことは、和算が衰退した理由を述べたところです。

「女であれ、男であれ、すぐれた才をもっている人は、だれでもおなじように重んじられなければならない。――それを、どうです。いまこの国では、どんなにすぐれた才をもっている人でも、身分がひくかったり、じぶんたちの仲間にはいっていないと、その才能を認めようとしない人がおおいのです。」(中略)

「まして、西洋の算法など、あたまからばかにして、うけつけようとしない。(中略)この国の算法に西洋の算法をとりいれれば、研究はもっともっとすすむはずです。いや、そうしなければ、われわれはたちおくれてしまうのです。」(P195,196)

 

「人のためになることがらを、秘伝だなどといって公開しない算法家たちは、まったくなげかわしい」(P250,251)

このセリフ、最初の『算法少女』が出版された、江戸時代のことを言っていて、和算が衰退した理由を述べていますが、いまの日本でもいえることかなって思って、考えさせられました。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

和算を巡るある少女の成長物語。児童向けで和算(数学)の知識がなくても楽しめます。1973年に出版。一度絶版になったにもかかわらず、2006年、30年以上ぶりに復刊しただけのことはあって、大人でも十分に楽しめるってことで星四つです。

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