おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『濹東綺譚』 永井荷風 石田衣良さんもおすすめ?

   

書評的な読書感想文139

『濹東綺譚』(文庫)

おすすめ度☆☆☆(星数別索引&説明

永井荷風(作家別索引

角川文庫 1951年9月

純文学 恋愛(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

昭和初期の私娼窟が舞台。江戸の情緒を残した街の様子が描かれていて、何とも興味深いです。そこに、木村壮八さんの挿絵がさらに趣を加えています。また、切ない恋の結末も秀逸です。字が大きいのもうれしい。

 

 

あらすじ

にわか雨に傘をひらき、慌てふためく街のさまを見ながら歩きかけると、結いたての潰島田の頭を入れてきた女がいた。わたしとお雪の出会いであった――。私娼窟が並ぶ向島の玉の井を訪れた小説家の大江匡は、かすかに残る江戸情緒を感じながら彼女のもとへ通うようになる。移ろいゆく季節と重苦しい時代の空気の中に描き出される、哀しくも美しい愛のかたち。永井荷風の最高傑作が、文字が読みやすく解説の詳しい新装版で登場。(作品紹介より)

 

 

石田衣良さんもおすすめか?

以前紹介した石田衣良さんの『目覚めよと彼の呼ぶ声がする』で二度も引用されていた作品。どんな風に引用されているかというと、

永井荷風は『濹東綺譚』のなかでこんなことをいっています。

「小説をつくる時、わたくしの最も興を催すのは、作中人物の生活及び事件が開展する場所の選択と、その描写とである。」

デビュー作の『池袋ウエストゲートパーク』を書いているときは、この言葉に深くうなずかざる得ませんでした。夏の明け方の西口公園、空き缶やカップ麵の容器が散らばるロマンス通りや西一番街、世界中からやってきた街娼がたつ北口ホテル街。そうした場所をていねいに描写していると、小説の筋ををすすめるよりも、ずっとおもしろかったのです。(『目覚めよと彼の呼ぶ声がする』石田衣良 P114)

といった感じです。別に石田さんがすすめている訳ではありませんが、影響を受けているし、二度も引用しているので、気に入ってはいそうです。

 

 

濹東は隅田川の東側のこと

「濹」とは隅田川のことで、「濹東」とは隅田川の東側のこと、具体的には現在の墨田区東向島付近に昔あった、私娼街「玉の井」が物語の舞台です。

 

永井荷風がモデルであると思われる小説家の主人公が、ひょんなきっかけ(このきっかけがまたオシャレ)で出会った「玉の井」の私娼お雪との淡い恋愛が物語の本筋です。

 

ただ、上にも書いたように、主人公に

「小説をつくる時、わたくしの最も興を催すのは、作中人物の生活及び事件が開展する場所の選択と、その描写とである。」(P22)

なんて語らせているだけあって、昭和初期の私娼街「玉の井」周辺の描写が細かく描かれていて、なんとも興味深いです。

すると意外にも、其処はもう玉の井の盛り場を斜めに貫く繫華な半程で、ごたごた建て連なった商店の間の路地口には「ぬけられます」とか、「安全通路」とか、「京成バス近道」とか、或は「オトメ街」或は「賑本通」など書いた灯がついている。(P25,26)

当時の街の様子が描かれているのですが、ヒロインのお雪が住んでいるところは、さらに場末の江戸の雰囲気を残した地域で何とも趣深く描かれています。

 

 

木村壮八の挿絵

私が読んだ角川文庫版のは当時の「朝日新聞」に連載した時の木村壮八さんの挿絵も収録されています。木村さんは洋画家としも有名な方で、玉の井に何度も足を運んで挿絵を描き、当時の『濹東綺譚』の人気の一因になったそうです。

 

これは引用できないので、本屋で見てとしかいえませんが、詩情あふれる趣のある挿絵で、人気の一端を担ったのも分かる気がします。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

個人的にうれしかったのは、文字が大きかったこと。これは角川文庫の改訂版からのことのようですが、明治から戦前までの本を読むときに難儀なのは、字が妙に小さいこと。いつも見辛いなと思っていたので、この文字が大きいバージョンはありがたかったです。

 

また、物語は小説家と私娼の交流がメインで描かれていますが、ちょっとした一言から始まる二人の別れが切ないってことで星三つです。

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