おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『海の底』 有川浩 図書館戦争のプロトタイプ的なところも

   

書評的な読書感想文132

『海の底』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

有川浩(作家別索引

角川文庫 2009年4月

サスペンス 恋愛(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

未知の災害の対処に奮闘する、警察関係者がかっこいい作品。不自由な組織の中で裏技を使ってでも最善を目指す、現場責任者達の描写が面白いです。また、図書館戦争のプロトタイプ的な部分があるのもうれしいです。

 

 

あらすじ

4月。桜祭りで開放された米軍横須賀基地。停泊中の海上自衛隊潜水艦『きりしお』の隊員が見た時、喧噪は悲鳴に変わっていた。巨大な赤い甲殻類の大群が基地を闊歩し、次々に人を「食べている」!自衛官は救出した子供たちと潜水艦へ立てこもるが、彼らはなぜか「歪んでいた」。一方、警察と自衛隊、米軍の駆け引きの中、機動隊は凄絶な戦いを強いられていく――ジャンルの垣根を飛び越えたスーパーエンタテインメント。!!(作品紹介より)

 

 

「自衛隊三部作」

毎度おなじみ「今好きな作家で打線を組んでみた。」で四番に入っている有川浩さんの作品。デビュー作からの三作品が自衛隊員を主人公にしているので、「自衛隊三部作」なんて呼ばれているシリーズの最後の作品です。

 

ただ、「自衛隊三部作」なんて呼ばれていますが、内容的なつながりはまったくないので、この作品から読んでも問題ありません。ちなみに、私はこのブログを始める前に他の二作品も読みましたが、今回の『海の底』が三つの中でダントツで面白かったです。

 

 

潜水艦の中

物語はほぼ独立した二つのパートから構成されます。その一つが巨大ザリガニの大集団が横須賀を襲った時、救出した近所の子どもたちと潜水艦に立てこもった、若手海上自衛官を主人公とした話。潜水艦に逃げ込んだはいいが、巨大ザリガニに周りを囲まれたため脱出不可能になり、潜水艦の中で子どもたちと共同生活を強いられます。

 

潜水艦の中での『十五少年漂流記』というのが、この作品を書く最初のきっかけだそうですが、子ども達の揉め事がおきたり、災害時の女性の大変さが描かれています。ほんのちょっとだけ恋愛要素もあります(有川さんにしては相当少なめ)。

 

揉め事が起きて、危機的な状況になるけど、最終的にはそれぞれの登場人物が少し成長して物事が解決するといった、ありがちな展開ではありますが、収まるところに収まって気持ちよく物語を読み終えられました。ただ、もう一つのパートのほうが面白すぎるので、こちらのパートは無くても良かったのでは、なんて思ったりもしました。

 

 

隠れ社会派

本筋は自衛官と子ども達が潜水艦の中で共同生活をする話ですが、サイドストーリーとして巨大ザリガニ発生事件を対処する警察の現場本部の奮闘を描いた物語があります。体長3メートルにもおよび、人を餌にする巨大ザリガニの大群を相手に被害を最小限にすること。さらには、現場の本部長が

「我々の役目は、後で必ず出張ってくる自衛隊のため環境を整えつつ、会議に逃避している官邸に現実を教えてやることだ。一刻も早く戦闘集団としての自衛隊を出動させるべきだとな。異論は犠牲者や遺族の前で述べられる者だけ発言を許す」(P105)

と発言しているように、いかにして自衛隊を引っ張り出すかということが、現場本部の使命になります。

 

警察、自衛隊、あとは、舞台が横須賀なので米軍、さらには官邸と各所の思惑が入り混じる中、問題児のキャリア官僚と警備の神様といわれるたたき上げ警官のコンビが活躍します。

 

物語の中で、自衛隊が重火器を使用すれば早急に解決できるのですが、政治的な問題でそれができず、重傷者を出しつつも機動隊が肉弾戦で処理せざるおえない状況が描かれています。

 

特に印象に残ったのが、政治的な理由で自分たちの本分にそぐわない仕事を強いられる警察の苦しみ、対処できるのに手を出せない自衛隊の歯がゆさ。こういった各組織の役割がちぐはぐな状況は、現実でも起きそう(もしくは東日本大震災で起きてる)なので、ちょっと考えさせられました。

 

被害を最小限にしつつ、この状況を打開するために、時には裏技やからめ手も使って、キャリア官僚と警備の神様のコンビが活躍する様子が痛快で楽しめました。個人的には、こちらのパートのほうが面白かったです。

 

 

図書館戦争の雛形

物語の中で『図書館戦争』のプロトタイプ的な部分がいくつか見られます。潜水艦に立てこもる自衛官二人は、不器用で直情型タイプと、冷静な皮肉屋で、図書館戦争の堂上と小牧を嫌でも思い出させます。

 

また、事件対策本部で活躍する警備の神様・明石の強引で無茶だけど合理的なやり方は、図書隊の玄田に近いものがあります。『図書館戦争』シリーズのファンの人は、随所で楽しめると思うのでおすすめです。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

一つの物語の中にいろいろなテーマを入れ込むのは、有川さんの得意とするところだと思いますが(『図書館戦争』が典型)この作品も、青春、恋愛、パニックムービーのようなもの、社会派サスペンスと、いろいろな要素があると思います。

 

『図書館戦争』ほどではないのですが、いろいろ楽しめたってことで星四つです。

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