『黒猫の三角』 森博嗣 動機がポイント
書評的な読書感想文132
『黒猫の三角』(文庫)
おすすめ度☆☆☆(星数別索引&説明)
森博嗣(作家別索引)
講談社文庫 2002年7月
ミステリー サスペンス(ジャンル別索引)
おすすめポイントを百文字で
個性的なキャラのやり取りが楽しい作品。
あらすじ
一年に一度決まったルールの元で起こる殺人。
今年のターゲットなのか、六月六日、 四十四歳になる小田原静江に脅迫めいた手紙が届いた。探偵・ 保呂草は依頼を受け「阿漕荘」 に住む面々と桜鳴六画邸を監視するが、 衆人環視の密室で静江は殺されてしまう。 森博嗣の新境地を拓くVシリーズ第一作、待望の文庫化。(作品紹介より)
Vシリーズ第一弾
森博嗣さんのミステリーシリーズで瀬在丸紅子を主人公とした、「Vシリーズ」の第一弾です。以前紹介した『すべてがFになる』の「S&Mシリーズ」はこのブログを始める前に読了済みで(『すべてがFになる』は再読)、『四季 春』の「四季シリーズ」を詠もうかなと思っていましたが、刊行が早い「Vシリーズ」を先の読もうと思いました。「四季シリーズ」は一端お休みです。
キャラが個性的
今作で何より楽しかったのが、個性的なキャラたちの掛け合い。元はお金持ちで、現在は一人息子と元執事と暮らしている、主人公の瀬在丸紅子をはじめ、探偵兼便利屋でアルバイトの斡旋から浮気調査までやっている保呂草潤平。
保呂草と同じ貧乏アパートに住んでいる大学生で、ボーイッシュで豪快な性格ながら意外に乙女な香具山紫子、少林寺拳法の使い手ながら女性的な性格で女装癖のある男子医大生、小鳥遊練無。
紫子と練無のガールズ?トークや、保呂草の浮気調査など事件にに関係あるのかないのか微妙なシーンもあったりしますが、個性的な四人の登場人物が、事件に関係あるなしにかかわらず、活躍します。
「S&Mシリーズ」が犀川と萌絵ほぼ二人で進行していたのですが、今作はは四人の個性的なキャラが活躍し、にぎやかなつくりになっていて楽しめました。どうやら、この四人は次回以降も出てくるようなのでシリーズを読み進めるのが楽しみになりました。
トリックより動機が印象的
あとがきで「アンフェアな香りが、しないでもない(P452)」とあるように、気になる人はいるかもしれないトリックです。ただ、私はトリックをじっくり推理したり、詳しく検証したりしないので今回のトリックも素直に驚けました。
むしろ、私は犯人の動機のほうが印象に残りました。作中では殺人事件が起きているのですが、物語の前半で主人公の紅子が殺人についてこんなことを行っています。
「(紅子の執事)遊びで人を殺している、とおっしゃるのですか?」
「(紅子)遊びで殺すのが一番健全だぞ」(P47)
復讐などの理由のほうが人情的に理解が出来るという、執事の反論には
「何を馬鹿なことを……。殺人者の心境が想像の範囲内であることの方が不健全ではないか。それでは、自分もいつか人を殺したくなるかもしれない、と思って落ち着けるというのか?それよりは、遊びで殺した、全然理解できない、で済ませる方が私は安心だ。人は遊びで生物を殺す。子供の頃、私もよくトカゲを殺して遊んだものだ。(P48)」
と答えています。にわかには共感し難い意見ですが、筋は通ってるように思えます。私も虫とか意味なく殺しましたしね。
物語の終盤、殺人動機について登場人物の中で議論が起こりますがこれもなかなか興味深いです。
「(殺人の情状酌量は)死刑と同じで、人が人を裁いていることになるのだよ。そういった殺人を認めることは、正義のためなら戦争を容認し、正義のためなら死刑を容認することへ進む可能性がある。」(P349)
「趣味のハンティングは、人間だけがする行為だわ。だから、それは、より人間的な行為といわざるをえません。とにかく他の動物には真似ができないんだもの。人間だけが思考し、言葉を話し、子孫に歴史情報を伝達し、哲学を構築し、科学を築いた。あらゆる芸術を生み、それを美しいと感じ、美しいものを愛した。もし、これが人間性だとしたら、意味もなく他の生命を奪う行為は、これと同じ部類に入るものだ、と私は確信している。」(P352、353)
いろいろな議論を経て、最後に明かされる犯人の殺人の動機は、とても気持ち悪いのですが、妙に説得力があって共感は出来ませんが、納得してしまいました。
書評的な読書感想文のまとめ
S&Mシリーズにはない愉快なキャラクターと、S&Mから継承されている、森さんらしい独特な考え方を楽しめました。この犯人の考え方はいろいろなミステリーの中でも、かなり印象的です。
ただ、トリックや物語の人間ドラマはそこまで印象的ではないので、おすすめ度は星三つです。
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