おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『無間人形』 大沢在昌 五つ巴

      2016/06/24

書評的な読書感想文127

『無間人形 新宿鮫Ⅳ』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

大沢在昌(作家別索引

光文社文庫 2000年5月

ハードボイルド 警察(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

四つ、五つと勢力が入り乱れ、物語の視点もコロコロと変わります。けれど、読みづらさは無く、むしろ、視点が変わることで緊張感が増しました。各勢力、色々と思惑がある中で、主人公が正義を貫くのが格好いいです。

 

 

あらすじ

新宿の若者たちの間で、舐めるだけで効く新型覚せい剤(アイスキャンディ)が流行り出した。薬(シャブ)を激しい憎む新宿署刑事・鮫島は、執拗に密売ルートを追う。地方財閥・香川家の昇・進兄弟の野望、薬の独占を狙う藤野組・角の策略、麻薬取締官の露骨な妨害、そして、恋人・晶は昇の手に……。現代を代表する超人気シリーズ第4弾、直木賞受賞の感動巨編、待望の文庫版で登場!(作品紹介より)

 

 

新宿鮫シリーズ第四弾&直木賞受賞作

以前紹介した『新宿鮫』『毒猿』『屍蘭』の続編で、直木賞受賞作です。若干第一弾の『新宿鮫』とリンクしてるところはありますが、シリーズを通した物語の内容的なつながりは薄いので、この巻から読んでも楽しめます。

 

 

入り乱れる各勢力

物語は新型覚せい剤・アイスキャンディを中心に進みます。

 

まずは、主人公の鮫島。アイスキャンディの卸元を突き止め、覚せい剤で荒稼ぎしている人間を根絶やしにしようと躍起になって卸元を追いかけます。相変わらず、基本的には単独行動で

鮫島が恐れられるのは、目先の点数稼ぎをせず、じっくりと待てる刑事だったからだった。狙った犯罪者を観察し、そのもっとも弱い急所に鋭い牙を立てるがゆえに「新宿鮫」と呼ばれるのだ。(P128)

と恐れられます。

 

今回はもう一組アイスキャンディを追いかけるグループがいます。それが、麻薬取締官。

麻薬取締官は、厚生省麻薬課に属し、麻薬取締法によって、特別司法警察職員としての身分を保証されている。覚せい剤の取締りに関しても、法律でその所持が許可されているため、オトリ捜査をおこなうことができる。(中略)

厚いガードに阻まれた卸売り組織以上の組織をあばくため、彼らは身分を偽って潜入し、捜査をする(P36)

規模は小さいのですが、全国に網を張り、半年、一年と時間をかけて捜査するのが麻薬取締官。今回の捜査では、鮫島に先んじてかなり深くまで捜査が進んでいますが、厚生労働省管轄だからこその理由で、慎重な捜査を強いられます。また、警察とのライバル心もあり、鮫島とは敵対する関係になってしまいます。

 

アイスキャンディの製造者は、とある地方の表と裏、両方の社会を牛耳れる力を持つ財閥の一族の一員である香川兄弟。切れ者で指令との兄・昇と、実際に取引をする弟・進。さまざまな面で不自由のないはずの兄弟が、なぜ覚せい剤の製造に手を染めたのか。自らもアイスキャンディのとりことなっている、弟・進の運命は。物語の中心となる二人です。

 

アイスキャンディの卸売りで、薬の独占を虎視眈々と狙っているヤクザの角。

一人前のやくざが、必ず、カタギの人間より勝っていることがひとつだけある。それは心理戦のエキスパートだということだ。(P84)

とあるように、角もはじめは不利な交渉だった香川兄弟との取引を、心理戦と、暴力によって主導権を奪おうと狙っています。一方で、鮫島や麻薬取締官に狙われることにもなります。

 

 

最後に香川兄弟の寝首を搔いて覚せい剤の製造の利益を横取りしようとする勢力。

 

この五つの勢力が入り乱れて物語りは進みます。各々が表と裏にと思惑を持って行動し、協力したり、裏切ったりと結構複雑です。しかも、カメラワークも各勢力を追っかけてコロコロと入れ替わります。にもかかわらず、まったくといっていいほど分かりづらい所も読みづらいところもなく、ストレスをためることなく読み進められます。

 

それどころか、後半かなりのテンポでカメラが切り替わりますが、それにあわせて読んでいるこちらのテンションもあがってしまいました。

 

 

我らがヒーロー鮫島

各勢力が入り乱れて、アイスキャンディを追いかけるこの物語ですが、動機の面で鮫島以外の勢力は結構屈折した思いをはらんでいます。麻薬取締官が香川兄弟に手を出せない理由や、香川兄弟が覚せい剤に手を出した理由などゆがんだ動機が隠れています。

 

そんななかで、鮫島だけはすっきりとした動機、覚せい剤を撲滅したい、恋人を守りたい、で行動します。アウトローではぐれ者ですが、読者が納得できる、自分のなかの正義を貫く鮫島はヒーローになる資格があるのかなって思いました。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

各勢力が入り乱れ、それぞれの思惑が錯綜する今作は、どっしりとした読み応えの傑作です。ただ、最後の香川兄弟の動機が弱かったりと、ちょっと尻つぼみ感もあるので、惜しい星四つです。

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