『トッカンVS勤労商工会』 高殿円 私も欲しいオンリーすき間
書評的な読書感想文123
『トッカンVS勤労商工会』(文庫)
おすすめ度☆☆☆(星数別索引&説明)
高殿円(作家別索引)
ハヤカワ文庫 2013年2月
お仕事 ミステリー(ジャンル別索引)
おすすめポイントを百文字で
前作に比べコミカルな掛け合いと税金徴収バトルが減っていて、正直期待はずれでした。また、
あらすじ
京橋中央税務署を揺るがす大事件が発生した。あの、
悪質な滞納者から隠し財産を差し押さえまくり“ 京橋中央署の死に神”と恐れられる、特別国税徴収官( 略してトッカン)の鏡が訴えられるかもしれない。 しかも背後には、税務署の天敵・ 勤労商工会のお抱え弁護士がついていた。 鬼上司のピンチにぐー子(トッカン付き徴収官)が立ち上がる! 面白くって、ためになる、 大好評の税務署エンターテインメントシリーズ第2弾。(作品紹介より)
『トッカン』シリーズ第二弾
以前紹介した『トッカン』シリーズの第二弾です。
「トッカン」とは特別国税徴収官の略で、悪質な税金滞納者から税金を取り立てるのが主な仕事です。主人公のぐー子はこの「トッカン」付きの職員で、国税徴収官として成長していく物語です。
ただ、上司の鏡との関係や「トッカン」の仕事など、第一弾を読んでいないと分かりにくいと思うので、一作目から読むのをおすすめします。
思ってたのと違う感
前作『トッカン』で面白かったのは、主人公のぐー子と上司の鏡のコミカルなやりとりと、鏡やぐー子など国税徴収官と滞納者の攻防にあったと思います。けれど、今作では鏡が勤労商工会に訴えられた話に力点置かれており、ちょっと期待したものと違っていました。
特に前半は鏡があまり出てこない上に、ぐー子が独り立ちしようと四苦八苦している描写はいいのですが、ちょっとさすがにドン臭すぎるのとネガティブシンキング過ぎて、読んでいて楽しくないどころか、しんどくなってしまいました。
本筋は鏡が担当している税金滞納者が自殺をしてしまい、その真相をぐー子と鏡の友人たちが解明するという話なので、前作のような思いもよらない脱税の方法や税金の豆知識的なものも少ないです。
思っていたのと違う分ちょっと評価が辛くなってしまいました。
「すきま産業」
主人公のぐー子は
いい歳をして、大学まで出て社会人になって、ちゃんと生活資金を稼いでるくせに、どうしていいかわからないことがあまりにも多すぎる。子供のころは、二十六歳なんてなんでもできる立派な大人なんだろうと思っていたのに、いまのわたしときたら基礎のないままにたてた柱のようだ。ちょっとした雨にもぐらぐらと揺らぐから、上になにも載せられない。
だから、成長できない。(P39、40)
と、大人としても、社会人としても自信を持てずに苦労してます。できる後半や先を行く同僚や先輩を横目に、自分は何をやっているのだろうと考える日々です。
ちょっとネガティブすぎて読んでいてしんどいのは確かなのですが、結構共感もできます。むしろ、共感できるからしんどいのかもしれませんが。
そんな彼女が職場で求めてやまないのが「すき間産業」
女子なら誰しも意識している、すき間産業。
わたしたちがすき間さがしに奔走するのは仕方ない。だって、この社会はもともと男が作ったものだ、わたしたち女子はすき間から入っていくしかない。
(わたしも欲しい、欲しいよ、わたしだけのオンリーすき間)(P294)
とありますが、その「すき間産業」とは
誰もが欲しいと熱望している職場での専門性。同僚から感謝され、上司からも目をかけられる“なにか”。(P399)
とあります。ただ、専門性といってもそんな大それたものではなく、クレームをうまくさばけるといったちょっとした強みのことです。だから、すき間。
物語では、男社会で生きる女性の悲哀として書かれていますが、男のわたしも共感できました。私も欲しいです、マイオンリーすき間。自分も含めて、仕事を抱えたがる人って自分だけのすき間が減るのが、いやだからってのもあるんじゃないかなって思ったりしました。
書評的な読書感想文のまとめ
思っていたのとは違うので正直期待はずれでしたが、OLの悲哀など共感できることもありました。今回は少なかったのですが、税の話や登場人物の掛け合いは面白く、次回作も読んでみたいってことで星三つです。
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