おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『蜩ノ記』 葉室麟 人としての生き様

   

書評的な読書感想文122

『蜩ノ記』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

葉室麟(作家別索引

祥伝社文庫 2013年11月

時代 人間ドラマ(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

登場人物の生き様に心が震えました。責任や覚悟持って生きるとはこのことかと。特に、農村の実情と共に語られる、百姓の倅の話が心に残りました。また、発端になった事件の真相は衝撃的で読む手が止まりませんでした。

 

 

あらすじ

豊後羽根藩の檀野庄三郎は不始末を犯し、家老により、切腹と引き替えに向山村に幽閉中の元郡奉行戸田秋谷の元へ遣わされる。秋谷は七年前、前藩主の側室との密通の廉で家譜編纂と十年後の切腹を命じられていた。編纂補助と監視、密通事件の真相探求が課された庄三郎。だが、秋谷の清廉さに触るうち、無実を信じるようになり……。凛烈たる覚悟と矜持を描く感涙の時代小説!(平成23年度下半期第146回直木賞受賞作)(作品紹介より)

 

 

テーマは生き様、主役は戸田秋谷と源吉

物語の主人公は、不義密通の廉で三年後の切腹が決まっている戸田秋谷です。不義密通事件が起きたのは七年前で、そのときに藩の家譜編纂(江戸時代の藩の歴史書みたいなもの)と十年後の切腹を命じられます。

 

この秋谷の生き様が物語の一つのテーマになってます。淡々と家譜を編纂し、近隣の農民たちに気を配り、三年後の死についても受け入れている清廉な様子は、とても不義密通を行うようには思えません。実際に事件の背後には、お家騒動や藩の勢力争いなど陰謀渦巻います。

 

勢力争いに巻き込まれたり、死に直面することがあっても、清廉な自分らしい生き方を貫く秋谷に心震わされました。

 

ただ、それ以上に印象に残ったのが、秋谷が住む村の百姓の子どもの源吉です。

「暮らしをどう立てようかぐれえ、自分たちで考えんといけん。お武家に頼っても埒はあかねえことぐらいわかっちょる。」(P124)

 

「おかあとお春(管理人註源吉の妹)は俺が守るけん、心配はいらん。おれは男じゃから」(P308)

酒びたりの父にかわって一家を守る覚悟を決めている源吉の生き様が、この物語の裏テーマといえます。舞台の農村では年貢の取り立てが厳しかったり、武士が横暴だったりします。そんななかで、この源吉は一生懸命で健気なのに、覚悟を決めていて大人以上に大人で、読んでいて胸が締め付けられました。

 

物語では秋谷と源吉という二人の男の生き様が描かれていますが、その様子は壇野庄三郎と秋谷の息子の郁太郎(源吉の親友)の二人の目を通して描かれます。この二人は、はじめは平凡な男(つまり読者と地続き)なのですが、二人の生き様を目の当たりにして成長していくのがわかり、その点も物語の見所になってます。

 

ひとは心の目指すところに向かって生きているのだ、と思うようになった。心の向うところが志であり、それが果たされるのであれば、命を絶たれることも恐ろしくはない。(P352)

終盤のある人物の心内文ですが、読んでいる私もいつの間にか同じように感じてしまっていました。

 

 

陰謀渦巻くサスペンス

物語の発端となる不義密通事件について、秋谷は何も語りませんが、壇野庄三郎の働きで真相が徐々に明らかになります。

 

背景には藩御家騒動や権力争いが渦巻いるのですが、少しずつ真相が明らかになるので本を読む手が止まりませんでした。陰謀渦巻くサスペンス的な楽しみ方も出来ます。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

何度も書きますが、物語のテーマは生き様です。そして私は、主人公の秋谷よりも、百姓の倅の源吉に心震わされました。終盤で秋谷は源吉について

「まこと武士も及ばぬ覚悟だ」(P319)

と評してます。グッときますってことで、星四つです。

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