おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『もつれっぱなし』 井上夢人 オール会話文

   

書評的な読書感想文120

『もつれっぱなし』(文庫)

おすすめ度☆☆☆(星数別索引&説明

井上夢人(作家別索引

講談社文庫 2006年4月

ミステリー サスペンス(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

全編男女の会話文のみの短編集。しかも、片方の人が宇宙人や幽霊などの存在を証明しようとする話。噛み合わない会話でフラストレーションがたまることもありましたが、後半の短編では仕掛けがあって驚かされます。

 

 

あらすじ

「…あたしね」「うん」「宇宙人みつけたの」「…………」。男女の会話だけで構成される6篇の連作編篇集。宇宙人、四十四年後、呪い、狼男、幽霊、嘘。厄介な話を証明しようとするものの、ことごとく男女の会話はもつれにもつれ──。エンタテインメントの新境地を拓きつづけた著者の、圧倒的小説世界の到達点。(作品紹介より)

 

 

全編会話文

今好きな作家で打線を組んでみた。」で、コンビ時代の名義「岡嶋二人」と連名で、二番に入っている井上夢人さんの作品。以前紹介した、『プラスティック』は、フロッピーに入った54の文章からなる小説でしたが、今回もなかなか特徴的で、全編会話文です。

 

六つの短編がまとめてあるのですが、全て一組の男女の会話文のみで、しかも、片方の人間が、宇宙人、四十四年後(未来)、呪い、狼男、幽霊、嘘の存在をそれぞれ証明する話になっています。巻末の解説では

いずれも、会話のなかでの巧みな状況説明と、女性側からの(にわかには信じられないが本人はそれをごく自然な真実として認識している)非日常的な状況の説明があり、それに読者と地続きな男性が対応しようと四苦八苦する小説である。(P304、305)

としてます。

 

ちなみにこの男女の役割は、六編の短編の後半に行くにつれて、ゆがんでいきます。

 

 

フラストレーションがたまる前半

上にも書きましたが、ちょっと信じられない現象を片方の人間が説明しようとするシーンが多いのですが、もう片方の人間がなかなか信じないため(当たり前ですが)会話がかみ合わなくて、読んでいる私もフラストレーションがたまりました。例えば、

「いや、そうじゃなくて―― いったい、なんの話だよ、これ?」

「だからね、あたしが――」

「まて。黙れ。頼むから、ちょっと黙ってくれ。いったい、これは、なんなのよ。どうして、主任を殺したなんてこと言い出したんだ?」(P128)

「呪いの証明」の抜粋ですが、こんな風に話がかみ合わなくて、どちらかがイライラしている文が結構あって、読んでいてフラストレーションがたまりました。特に、前半の三つの短編で。ただ、おそらく、たぶんですが、このイライラも井上さんの計算な気がします。

 

 

仕掛けのある後半

前半三つの短編は、わりと一定の枠組みで、フラストレーションもたまりがちでしたが、後半の三つでいろいろ持っていかれました。

 

話の枠組みがかわり、それぞれのエンディングにも仕掛けがあって、楽しめました。前半の展開は、後半の短編を生かすためにあったのではないと思えます。

 

特に気に入ったのは、最後の短編の「嘘の証明」。先生と万引きを疑われている生徒との会話なのですが、微妙な力関係(必ずしも、先生が上ではない)があって、なかなか緊張感のある内容でした。

 

そして、最後の最後で意外な展開。思わず声が出て、登場人物の背景など考えてしまいました。この短編だけでも読む価値あり。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

好き嫌いはともかく、実験的で面白く、会話文なのでサックと読めます。後半は面白かったのですが、前半で結構イライラしてしまったので、星三つです

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