おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『隠蔽捜査』 今野敏 理想の官僚

   

書評的な読書感想文111

『隠蔽捜査』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

今野敏(作家別索引

新潮文庫 2008年2月

警察 サスペンス(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

まず何より主人公の竜崎のキャラがいいです。一見、変人のようですが、徐々に官僚として信念が見えてきます。また、事件そのものではなく、マスコミ対策などにスポットを当てるのも新しいです。シリーズ制覇します。

 

 

あらすじ

竜崎伸也は、警察官僚である。現在は警察庁長官官房でマスコミ対策を担っている。その朴念仁ぶりに、周囲は〈変人〉という称号を与えた。だが彼はこう考えていた。エリートは、国家を守るため、身を捧げるべきだ。私はそれに従って生きているにすぎない、と。組織を揺るがす連続殺人事件に、竜崎は真正面から対決してゆく。警察小説の歴史を変えた、吉川英治文学新人賞受賞作。(作品紹介より)

 

 

変人警察官僚・竜崎伸也

以前紹介した『小説こちら葛飾区亀有公園前派出所』に載っていて気になっていた、今野敏さんの作品です。期待を裏切らない面白さで、読んでよかったと思わしてくれる作品でした。

 

この物語、主人公・竜崎伸也のキャラクターが何より面白いです。いわゆる警察のキャリア官僚なのですが、

竜崎も東大卒だ。それが省庁で生きていく最低条件なのだ。(P10)

 

発想を豊かにする教育などと、ばかなことを言っている教育評論家がいるが、人間、追い詰められた時の発想力こそ大切なのだ。(中略)

だいたい教育評論家などという連中こそが、負け組みなのだと竜崎は思っている。教育の第一線でつとまらないから評論家などやっているのだろう。また、彼らの学歴を見れば勝ち組でないことは、一目瞭然だ。東大卒の教育評論家など見たことがない。(P27)

 

(官僚になるのに)青春時代を失った分だけ、老後くらいはいい思いがしたい。それが竜崎の本音だ。(P44)

序盤で竜崎の考え方が書かれるのですが、悪い意味でステレオタイプな官僚かと思ってしまいます。

 

しかし中盤以降、偏っていて変人ではありますが、信念を持って警察官僚の職務を全うしている竜崎像が見えてきます。

「警察庁の課長職にある者が、夜中に電話一本で飛んでくる。そんなの、お前くらいのものだ」

「私はすべきことをしているだけだ」

竜崎は、本当にそう思っていた。彼にはエリート意識がある。エリートには特権とともに当然大きな義務もつきまとう。本気でそう考えているのだが、なかなかまわりに理解されない。(P65)

一般人とは感覚が違うが、悪い意味の官僚的な考え方とも違う竜崎を自然と応援している自分がいます。こんな官僚がたくさんいれば、この国ももっと住みやすくなるだろうなと思いました。

 

一方で、竜崎のような考え方は官僚の中では異端で、その分生きにくいだろうとも思います。

「大人になれよ、竜崎。どこの国のどの組織だって、それくらいの秘密は抱えている。世の中はな、きれい事じゃ済まないんだよ」

その物言いに怒りが募った。原則を曲げる時に、人は大人という言葉を使う。だが、その言い方はごまかしに過ぎない。(P276)

 

 

二つの事件

物語の中では二つの事件が起きます。一つは警察組織を揺るがす連続殺人事件。竜崎はマスコミ対策を担う総務課長として事件に対します。上に書いたように、信念を持って官僚の職務を全うする竜崎が、警察組織を揺るがす出来事にどう対処するかが見所です。

 

もう一つは竜崎の家庭内で起こる事件です。官僚としてその身を国に捧げて働く竜崎なので、家庭のことは奥さんに任せきりで、父親として失格だったりします。そんな竜崎が家庭内で起きた問題をどう対処するかが、官僚としての資質を示し、上の殺人事件ともある意味関係してくることになってしまいます。

 

警察小説ですが、刑事が出てきて事件を解決したりはしません。キャリア官僚として警察庁内の思惑を調整したり、見極めたりしながら、マスコミと腹の探りあいなどを行うところが見所であり、面白いところです。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

読んでる途中で面白い作品を見つけた手ごたえを感じていたので、シリーズ作品を追いかけようと決めていました。なので、本編の最後の最後の文章

これから、おもしろくなりそうじゃないか。(P402)

という、竜崎の言葉を読んで、私の心情とぴったりリンクしていてちょっと鳥肌が立ちました。

 

これは面白いってことで、星五つにしたいところですが、シリーズの次回作以降に期待して控えめの、星四つです。

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