おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『アイスクリン強し』 畠中恵 ページから甘い香りが漂います。

   

書評的な読書感想文108

『アイスクリン強し』(文庫)

おすすめ度☆☆☆(星数別索引&説明

畠中恵(作家別索引

講談社文庫 2011年12月

青春 時代(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

旨そうな洋菓子と明治二十年代の雰囲気が見所。主人公の洋菓子屋と元幕臣の警官のたちがちょっとした騒動を解決する青春物語ですが、東京と江戸と外国が入り混じったような築地周辺の様子が興味深いです。

 

 

あらすじ

お江戸が東京へと変わり、ビスキット、アイスクリン、チヨコレイトなど西洋菓子が次々お目見え。築地の居留地で孤児として育った皆川真次郎は、念願の西洋菓子屋・風琴屋を開いた。今日もまた、甘いお菓子目当てに元幕臣の警官たち「若様組」がやってきて、あれやこれやの騒動が…。キュートな文明開化物語。(作品紹介より)

 

 

明治二十三年

物語の舞台は明治二十三年の築地や銀座の界隈です。

 

明治二十三年というと、明治十年に西南戦争起きて以降、大きな内戦は起きておらず、やっと第一回の帝国議会が行われたのがこの年です。江戸から明治への変貌にめどがついた年といえるかもしれません。

 

一方で、庶民の中にはまだまだ江戸時代の雰囲気が残っていて(特に貧しい人々には)、いろいろなものがごちゃ混ぜになっている時代です。

 

 

築地居留地

物語の舞台である明治時代の築地には外国人の住居区域である居留地があり、中には公使館などもあり、教師や宣教師など知識人が多く住んでいました。学校なども多くあり、今の青山学院や立教学院などは築地が発祥の地です。

 

主人公の洋菓子店の店主皆川真次郎はこの築地で育ちました。また、築地の近くにある銀座は今と同じく流行の最先端の地で、

道にはアーク灯が光り、鉄道馬車が行き交う世の中だ。銀座には西洋の街と見まごうばかりに煉瓦街が建ち、歩道を外国人が当たり前のように歩いている。(P151)

といった様子で、物語は明治の最先端の地を舞台にしています。

 

ただ、ちょっとはなれた上野の片隅には貧民街があり、江戸時代の長屋がそのまま残っていたりします。また、主人公の親友で警官の長瀬たちは元幕臣で自分たちのことを若様組と呼んでいたりします。彼らは、江戸時代からの家臣を未だに面倒見ていて、何かと金欠で駆けずり回っていたりします。

 

時代的にも、地域的に江戸と明治が入り混じった物語になっています。

 

 

ちょっとした騒動を解決

物語は主人公の真次郎や長瀬たち若様組が、身の回りに起きるちょっとした騒動を解決する話です。この形式は以前紹介した『まんまこと』に近いかもしれません。

 

例えば、貧民街で金目のもの何も持っていないのに、何度も盗みに入られる女性を助けたり、御家再興のために大名の血を引く若様を探す元武士を手助けしたりします。死にいたることもある疫病コレラに立ち向かう話なんかもあります(明治二十三年には実際にコレラが流行した)。

 

どの話にも、一筋縄ではいかない事情があったりしますが、真次郎の知恵と長瀬たち若様組の機動力や腕っ節を使って解決します。

 

 

何よりお菓子がうまそう

牛乳一コールドを軽く温め、牛酪十五匁を溶かす。砂糖を匙で二杯、塩を一つまみ入れ、ある程度冷ましたら黄身に小麦粉を混ぜ、どろどろにしたものを、先の牛乳と牛酪の中に入れる。その後泡立てた白身を加え、全てを混ぜたら生地の出来上がりであった。

真次郎が暖炉に鉄鍋をかけ、(中略)暖炉の前で方膝をついた格好で、ワッフルスの生地を鉄鍋に落とすと、菓子の甘い香りが部屋内に流れる。皆の顔に笑みが浮かんだ(P320)

物語には明治時代の洋菓子がいくつも出てきます。上はワッフルスを作るシーンです。明治時代風の呼び名や分量が興味をそそりますが、何より美味しそうです。これ以外にもシユウクリームやらチヨコレイトなど出てきて、ページから甘い香りが漂ってきます。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

連作短編の形式なので読みやすいのですが、もう少し読み応えがあっても良かったかなと思いました。また、真次郎と長瀬がどっちが主役かわかんない感じがして、焦点がぼやけてしまった気もします。

 

ただ、舞台や時代が私の知る限りわりと珍しいので興味をそそられるのと、出てくるお菓子が美味しそうなので、星三つです。

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