おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『檸檬』 梶井基次郎 妄想爆発

      2016/05/11

書評的な読書感想文098

『檸檬』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

梶井基次郎(作家別索引

新潮文庫 1967年12月(ブログで使われている画像等は新装版です)

純文学 人間ドラマ(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

『檸檬』や『桜の樹の下には』、『愛撫』などフェチと妄想が爆発した作品が秀逸。異常ともいえる発想も凄いのですが、五感を刺激する描写が素晴らしいです。作者の妄想と現実が、いつの間にか溶けあってしまいます。

 

 

あらすじ

31歳という若さで夭折した著者の残した作品は、昭和文学史上の奇蹟として、声価いよいよ高い。その異常な美しさに魅惑され、買い求めた一顆のレモンを洋書店の書棚に残して立ち去る『檸檬』、人間の苦悩を見つめて凄絶な『冬の日』、生きものの不思議を象徴化する『愛撫』ほか『城のある町にて』『闇の絵巻』な ど、特異な感覚と内面凝視で青春の不安、焦燥を浄化する作品20編を収録。(作品紹介より)

 

 

『檸檬』五感が刺激されます

京都を中心に関西方面に旅行に行く予定なので、京都気分を盛り上げるために読みました。作中に京都っぽさはあまりないんですが、京都を舞台した文学=『檸檬』というイメージが強いです。

 

以前紹介した『ホルモー六景』や『珈琲店タレーランの事件簿4』と京都を舞台にした小説に、オマージュの作品があるので、京都の小説=『檸檬』というのも、私だけの思い込みでもないでしょう。

 

内容的にはほんの数ページの小品ですが、いいですね。有名なラスト(ネタバレになるので一応伏せときます)の妄想もいいのですが、五感をフルに刺激する描写が秀逸です。

(色ガラスのおはじきなどを)またそれを嘗めて見るのが私にとって何ともいえない享楽だったのだ。あのびいどろの味程幽かな涼しい味があるものか。(P9)

 

一体私はあの檸檬が好きだ。レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固めたようなあの単純な色も、それからあの丈の詰った紡錘形の格好も。(P11,12)

例を挙げるときりがありませんが、これ以外にも触覚や嗅覚に訴える描写もあり、五感を全てを使って物語を読むことができるのはすごいとしか言いようがありません。

 

 

『桜の樹の下には』衝撃のコントラスト

桜の樹の下には屍体が埋まっている!

これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。(P162)

これも有名な短編の冒頭です。

 

しびれますね。桜が見事に咲きすぎて不安になる感受性。そして、桜の樹の下に屍体が埋まっていると結論づける妄想力。この後は引用しませんが、屍体の描写が気持ち悪いのが、よりいっそうしびれます。

 

 

『愛撫』一番のお気に入り

20編ある短編で一番好きな作品がこの『愛撫』です。猫の耳や爪について、ちょっと残酷な妄想する話です。冒頭部分が一番好きなので引用します。

猫の耳というものはまこと可笑しなものである。薄べったくて、冷たくて、竹の子の皮のように、表には絨毛が生えていて、裏はピカピカしている。硬いような、柔らかいような、なんともいえない一種特別な物質である。子供のときから、猫の耳というと、一度「切符切り」でパチンとやって見たくて堪らなかった。これは残酷な空想だろうか?(P222)

猫の耳の的確な描写からの、この妄想。残酷だけど、私はかなり共感してしまいました。あのフニュフニュなのをパチンと。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

20編の短編のうち半分くらいは、病気がちな主人公が出てくる私小説的な話です。正直、私は退屈でした。むしろ、上に書いた3編や、性病にかかった主人公が出てくる『ある心の風景』、のぞきにはまった男が出てるくる『ある崖上の感情』など、フェチや妄想が爆発した作品が面白いです。

 

『檸檬』や『愛撫』で引用したところから分かるように、描写力が物凄いため、いつの間にか妄想も現実も溶け合って目の前に現れるようです。

 

面白い作品とそうでない作品の落差は激しいですが、ひとつひとつは短い作品なので立ち読みでも、Kindleで1編ずつただで手に入れてもいいと思うってことで、星四つです。

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