おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

*

『紙の月』 角田光代 運命の歯車が軋む

   

書評的な読書感想文092

『紙の月』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

角田光代(作家別索引

ハルキ文庫 2014年9月

サスペンス 人間ドラマ(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

主人公の運命の歯車が軋みをあげ、人生が転落する方向に、歯車が狂ってしまう瞬間が分かります。巧みな構成で結果が分かってるからこそ、手に汗握ります。主人公の友人たちのサイドストーリーも意味深です。

 

 

あらすじ

ただ好きで、ただ会いたいだけだった――わかば銀行の支店から一億円が横領された。容疑者は、梅澤梨花四十一歳。二十五歳で結婚し専業主婦になったが、子どもには恵まれず、銀行でパート勤めを始めた。真面目な働きぶりで契約社員になった梨花。そんなある日、顧客の孫である大学生の光太に出会うのだった……。あまりにもスリリングで、狂おしいまでに切実な、傑作長篇小説。各紙誌でも大絶賛された、第二十五回柴田錬三郎賞受賞作、待望の文庫化。(作品紹介より)

 

 

運命の歯車が軋みをあげ、ある時歯車が狂いだす。

主人公の梨花の運命の歯車が軋みをあげる音が、行間から聞こえてきます。それは旦那の何気ない一言で梨花の心に小さなわだかまりができる瞬間です。

 

梨花がパートで働き始めた時の旦那・正文との会話。

「やはりいちばんたいへんなのって人間関係だものね。あそこなら私、気持ちよく働けると思うわ」

「まあ、正社員だったらそんなことじゃすまされないだろうけど、パートなんだから、そのくらい気楽なほうがいいよ」(P75)

このこと意外にも

折に触れ、正文は梨花の一ヶ月に稼ぐ額がいかに少ないか、さりげなく言及する。(P85)

なぜそんなことを夫が言うのか理解できない梨花。夫としてのつまらないプライドと梨花の世間知らずなところがかみ合わないことで、二人の関係が、そして梨花の運命の歯車が少しずつ、確実にゆがんでいくのが分かります。

 

そして、ある些細な偶然と小さなミスのせいで、運命の歯車が狂ってしまいます。

 

 

巧みな構成

以前紹介した『八日目の蝉』の時にも角田さんの構成の巧みさに言及しましたが、今回も物語の構成がすごくうまいです。

 

物語のはじめの段階で、梨花が横領をしてしまうことは明らかにされます。そのため、読者はどういった道筋で梨花が横領に及ぶのかを今か今かと注目しながら読み進めます。

 

そうした状態で、梨花の運命の歯車が軋むがごとく夫婦仲に微妙なずれが生じ、ある出来事が起きた瞬間、歯車が狂ったことが読者にも分かります。その出来事自体は些細なことで、普通なら何事もなく通り過ぎるようなことですが、横領という結果を知っていて、夫婦にずれがあることを知っている読者には、決定的であることが理解出来ます。

 

巧みな構成のおかげで、運命が狂う瞬間を見ることができました。

 

ただ、当然主人公の梨花にしてみれば、そのとき運命が狂ったと理解できるはずもなく、横領に向かって突き進みます。ある時、

梨花は罪悪感も不安もいっさい感じることなく、自分でも説明のつかないその万能感の心地よさに、ひとけのないホームでひとり浸っていた(P155)

りしますが、読者から見れば破滅に向かっているのが分かり、主人公の気持ちと読者の見えているもののギャップがこの物語の面白さといえます。

 

 

脇役達のサイドストーリー

梨花が横領に手を染め、その後どういう風にお金を使ったかが物語のメインですが、梨花の友人たちの様子がサイドストーリーとして描かれています。

 

三人の人物がそれぞれサイドストーリーを作るのですが、どの人物もお金のことで人間関係をおかしくしてしまいます。作者は結論めいたことを書くわけでもなく、説教をしたいわけでもないです。ただ、メインの梨花の話と、三つのサイドストーリーを読めば、読者はなにかしらお金と幸せについて結論を出しているでしょう。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

今はもうやってないのですが、ギャンブルにはまっていた時期があって、当たった時の高揚感が、作中の女性たちが買い物してテンションが上がっている(その後、後悔することもしばしばあるのですが)様子と似ているなと思いました。そのうち、当たる快感を求めてギャンブルにのめりこみそうで、やめたのですが。

 

そんな時に、梨花のようにちょっとしたきっかけがあると、犯罪に手を染めてもおかしくないなと思いました。日常と梨花のような犯罪は案外紙一重なのかなと。

 

運命が狂う瞬間は鳥肌立ちましたってことで、星四つです。

よろしかったらクリックお願いします。

 

 - ☆☆☆☆ , ,