おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『しゃべれどもしゃべれども』 佐藤多佳子 ”良し”不足

   

書評的な読書感想文084

『しゃべれどもしゃべれども』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

佐藤多佳子(作家別索引

新潮文庫 2000年6月

青春 恋愛(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

特別なことが起きるわけではないのに、とても暖かな読後感の作品。登場人物たちが、コンプレックスに対して悪戦苦闘するようすでこれだけ面白いのが、この作者のすごいところです。気持ちが充電される作品です。

 

 

あらすじ

俺は今昔亭三つ葉。三度のメシより落語が好きで、噺家になったはいいが、未だ前座よりちょい上の二ツ目。自慢じゃないが、頑固でめっぽう気が短く、女の気持ちにゃとんと疎い。そんな俺に話し方指南を頼む物好きが現われた。でもどいつも困ったもんばかりで……歯切れのいい語り口で、言葉にできないもどかしさと不器用な恋を描き、「本の雑誌が選ぶ年間ベストテン」第一位に輝いた名作。(作品紹介より)

 

 

落語教室

物語は落語家の古今亭三つ葉がひょんなことから、しゃべりにコンプレックスを持っている、四人の男女に落語を教えることになるところから始まります。この四人の男女が曲者。

 

自分に自信が持てず人前でうまくしゃべれない女、十河五月。

吃音でうまくしゃべれず、テニスのコーチを首になりそうな男、綾丸良。

転校した学校でいじめに会ってる関西弁の生意気な少年、村林優。

野球中継でテンポ良くしゃべれず干されかけている、元プロ野球選手、湯河原太一。

 

教え役の落語家は師匠のダメだしを受け考え込んでしまい、どんどん落語が下手になってる男、古今亭三つ葉。

 

この五人が落語教室を通して、自分自身と向き合うようになる話です。

 

 

自信とは

作中に五人のキャラクターを良く現しつつ、「自信を持つ」ということとはどういうことかうまく言い表している表現があるので引用します。

自信って、一体何なんだろうな。

(中略)何より、肝心なのは、自分で自分を”良し”と納得することかもしれない。”良し”の度が過ぎると、ナルシシズムに陥り、”良し”が足りないとコンプレックスにさいなまれる。(中略)

綾丸良は”良し”が圧倒的に足りない。十河五月も”良し”がもっと必要だ。村林優は無理をした”良し”が多い。湯河原太一は一部で極度に多く、一部で極度に少ない。

外山達也(古今亭三つ葉の本名)は満タンから激減して何がなにやらわからなくなっている。(P220)

自分の”良し”はどの程度で、それは適切な量なのかと考えてしまいました。私はたぶん不足気味です。

 

 

こっちへお入りとの比較

落語がテーマの物語といえば、以前紹介した『こっちへお入り』があります。『こっちへお入り』は落語の中身からヒントを得て、主人公が成長する物語なので、いろいろな落語が作中に出てきます。

 

一方で、『しゃべれどもしゃべれども』は落語がテーマですが、生徒たちの精神年齢が低いこともあるのか、落語の内容というよりも落語を学ぶ仲間とのやりとりの中で成長するさまが描かれてるといえるかもしれません。

 

なので、小説を読みながらいろいろな落語が知りたいという人は『こっちへお入り』をおすすめします。

 

 

ミステリー、サスペンス要素ゼロ。恋愛要素、20%

もちろん、紆余曲折はあります。ただ、なにか特別なことがあるかといわれれば、特にないのがこの物語。今流行のミステリー、サスペンス的な要素はゼロです。恋愛要素もなくはないのですが、少なめです。

 

では、何があるかといわれれば、主人公の三つ葉を中心に五人の登場人物がコンプレックスを抱えて悪戦苦闘する様子がかかれています。ただ、それだけなのに面白いのは、作者の佐藤多佳子さんのすごいところだと思います。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

物語が終わって、コンプレックスが解消されたかというと、解消されてません。では、先ほど書いた”良し”は増えているかというと、増えている人もいれば、まだ変わってない人もいます。でも、みんなこれから増える準備はできているようです。

 

ただ、とても暖かい気持ちになる読後感で、少なくとも読者の心のエネルギーみたいなものは増えると思います。同じ佐藤さんの作品の『サマータイム』も読後感が印象的でしたが、この物語もタイプは違いますが、印象的な読後感ってことで星四つです。

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