『こいしり』 畠中恵 江戸東京博物館はおすすめ
書評的な読書感想文064
『こいしり』(文庫)
おすすめ度☆☆☆(星数別索引&説明)
畠中恵(作家別索引)
レーベル 2011年11月
時代 ミステリー(ジャンル別索引)
おすすめポイントを百文字で
前作の様にもつれた糸を解きほぐす様な裁定を下す話が少なくて残念ですが、
あらすじ
町名主名代ぶりが板についてきた麻之助は、
ついに祝言をあげることに。 けれど花嫁を迎えに出ようとしたその時、悪友・ 清十郎の父が卒中で倒れてしまう。堅物の父・源兵衛から「 かつて訳ありだった二人のおなごの境遇を確かめて欲しい」 と頼まれた清十郎は仰天し――大人気「まんまこと」 シリーズ第二弾。(作品紹介より)
『まんまこと』シリーズ第二弾
以前紹介した『まんまこと』の第二弾です。基本的には連作短編形式なのですが、全体を通したテーマもあります。そのテーマが、前作と今作でつながっているので、第一弾から読んだほうが楽しめる作品になっています。
『しゃばけ』シリーズと『まんまこと』シリーズ
主人公の麻之助は町名主の跡取り息子です。
町名主は玄関で、町内の者達に起こった揉め事を、裁定する立場にある。勿論、重要な件、大きな事であれば町奉行が裁くのだが、町中や家族間の揉め事などであれば、町名主が裁定すると相場は決まっている。(P120)
とあるように、主人公の麻之助が町名主の名代として、単に真実を暴きだすだけでは解決しない様な揉め事の裁定をします。これがこのシリーズに核なのかなと勝手に思っていたので、今作の『こいしり』では裁定シーンが少ないのが残念でした。
一方で作者の畠中さんの代表作である『しゃばけ』シリーズは、若旦那と妖たちのキャラクターを楽しむ物語なのかなと思います。『しゃばけ』ではキャラクターを楽しむ物語なので、どんな形式の物語でも(実際に『しゃばけ』シリーズでは色々形式の物語があります)楽しめますが、『まんまこと』シリーズでは最後に麻之助が裁定を下して、読者をすっきりさせるという形式を守ったほうが面白いのではないかと思いました。
まあ、これは私の主観で、他の人は麻之助、清十郎、吉五郎の三人が活躍する話とかが好きかもしれませんが。
江戸の盛り場・両国と江戸東京博物館
今回の物語では両国の盛り場のシーンが何度も出てきます。当時の雰囲気が伝わってきて楽しいのですが、初めて読んだ時は(今回は再読)いまいちビジュアルが思い浮かびませんでした。
ただ、両国駅近くにある(国技館のそば)江戸東京博物館(ホームページへ)にある両国の盛り場のジオラマを見た時に、当時はこんな風なのかとすごく感動したのを覚えています。ものすごく細かく再現されていて、見ているだけでめちゃめちゃ楽しいです。
この江戸東京博物館には日本橋付近のジオラマもあるので、『しゃばけ』の若旦那が住んでいる様な大店の様子も分かりますし、『ぼんくら』に出てくるような裏長屋もあります。ちなみに、『ぼんくら』に名前だけ出てくる回向院の茂七親分の回向院という寺も両国近くです。
これ以外にも、長屋住まいの庶民の部屋の様子が再現されていたり、手習い所の様子が再現されているなど時代物好きが、気になる、見てみたいと思うようなが場面が再現されているので江戸時代の物語が好きな人は必見です。(常設展なのですいてますしね)
物語の軸
『まんまこと』を紹介した時に、各々の短編を貫く軸になる物語として、主人公の麻之助と幼馴染お由有の物語があると書きました。今回の『こいしり』でも短編を貫く軸があるのですが、それは麻之助とお由有と麻之助の妻・お寿ずの関係の変化です。
麻之助とお寿ずの結婚。お由有のある身の上の重大な変化。麻之助の浮気疑惑と何かと三人の間で変化が起こり、そのたびに微妙に三人の関係性が変化していきます。うれし、恥ずかし、かなしい、寂しい。さまざまな感情がない交ぜになりつつも、最終章でうまくまとまったと、私は思います。
まだ、このシリーズは続くようなので、今後も三人の関係に注目です。
書評的な読書感想文のまとめ
上にも書きましたが、『まんまこと』ほどすっきりと解決する裁定の話が少ないので、残念でした。ただ、麻之助とお由有とお寿ずの関係は今後も追いたいなと思いました。そんなわけで、間を取って星三つです。
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