おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

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『ヒア・カムズ・ザ・サン』 有川浩 執筆経緯が面白い

   

書評的な読書感想文042

『ヒア・カムズ・ザ・サン』(文庫)

おすすめ度☆☆(星数別索引&説明

有川浩(作家別索引

新潮文庫 2013年10月

恋愛 家族(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

同じあらすじから生まれた、2つの物語をまとめた本です。編集者が主人公のため、作家や編集者に対する言葉が印象的です。二本目は鍵になる人物の性格が苦手で、読んでいて辛かったのですが、読後感はさわやかです。

 

 

あらすじ

編集者の古川真也は、特殊な能力を持っていた。手に触れた物に残る記憶が見えてしまうのだ。ある日、同僚のカオルが20年ぶりに父親と再会することに。彼は米国で脚本家として名声を得ているはずだったが、真也が見た真実は──。確かな愛情を描く表題作と演劇集団キャラメルボックスで上演された舞台に着想を得た「ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel」を収録。有川浩が贈る物語新境地。(作品紹介より)

 

 

物語の成り立ち

真也は30歳。出版社で編集の仕事をしている。

彼は幼い頃から、品物や場所に残された、人間の記憶が見えた。

強い記憶は鮮やかに。何年経っても、鮮やかに。

ある日、真也は会社の同僚のカオルとともに成田空港へ行く。

カオルの父が、アメリカから20年ぶりに帰国したのだ。

父は、ハリウッドで映画の仕事をしていると言う。

しかし、真也の目には、全く違う景色が見えた……。(P6)

物語がこの七行のあらすじしか、まだ存在しないときにとある役者さんが、このあらすじで成井豊と有川浩が生み出すそれぞれの物語を読んでみたいとつぶやいたそうです。成井豊さんとは演劇集団キャラメルボックスの脚本家です。

 

この本には、上のあらすじから有川さんが書いた『ヒア・カムズ・ザ・サン』と、成井さんが脚本を書いてキャラメルボックスで上演した舞台から有川さんが着想を得て書いた『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』の二つの物語が収録されています。

 

 

『ヒア・カムズ・ザ・サン』

どちらの物語も、文芸誌の編集者が主人公ですが、一本目の『ヒア・カムズ・ザ・サン』では編集者や作家のあり方に対する印象的な言葉が多くありました。

編集者にとって一番大切な仕事は物語に寄り添うことだ。

物語に寄り添い、登場人物に寄り添い、物語が望む結末を探す。

編集者は作家の示す世界において、そのための探訪者であらねばならないのだ。(P121)

 

強烈に憎まれることと強烈に愛されることは裏表だ。――十人に読まれて十人全員にそこそこ受け入れられるような作品は、印象が良いんじゃなくて、印象が薄いって言うんだ。(P33)

言葉の力が強い、と思いました。

 

 

『ヒア・カムズ・ザ・サン Parallel』

こっちの話は読むのが辛かったですね。物語の鍵になる人物であるカオルの父親のキャラクターがどうにも受け入れ難くて。カオルの父親は娘から

「見果てぬ夢を追いかける芸術家系?ただし自尊心に才能が追い着いてない系。」(P148)

と評されます。日本で脚本家として泣かず飛ばずで会社を解雇され、諦め切れずにアメリカに渡るも当然成功は掴めないでいます。けれど、帰国して、周りの人には成功しているとバレバレの嘘の話をしてしまう人です。

 

子供なら許されるかどうかは別として受け入れ難い言うほどでもないのですが、父親世代の大人だときついですね。いたたまれない気持ちや恥ずかしい気持ちが溢れてきます。けど、そんなカオルの父親の中に、自分の姿や自分の父親の姿も垣間見えたりするので(たぶん誰でも、しょうもない嘘の一つや二つはついたことがあるでしょう)、余計にきついです。

 

ただ、そこを我慢して最後まで読むと、さわやかな読後感を得られること請け合いです。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

以前紹介した『図書館戦争』シリーズのあとがきで、有川さんご自身のことを「ライブ型」とおしゃってました。「ライブ型」とは小説を書く際あまりきちんとしたプロット作らずに、ぶっつけ本番で書く小説家のことです。

 

この物語の執筆経緯を考えるとライブ型の有川さんの持ち味が生かし切れなかったのかなと思います。私の中で有川さんに対するハードルが上がっているせいもあって、この物語はやや期待はずれでしたってことで、星二つです。

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