おすすめ本の輪

小説のレビューというか書評的な読書感想文みたいなのを書いてきます。

*

『ぼんくら』 宮部みゆき おでこがかわいい

   

書評的な読書感想文041

『ぼんくら上下』(文庫)

おすすめ度☆☆☆☆(星数別索引&説明

宮部みゆき(作家別索引

講談社文庫 2004年4月

ミステリー 時代(ジャンル別索引

 

 

おすすめポイントを百文字で

江戸の長屋住まいの庶民の濃密な人間関係と、得体が知れない大商人・湊屋や事件の不気味さの対比が鮮やかで引き付けられます。庶民の微妙な身分や立場の差が説明されているので、人間関係の裏の裏まで読み取れるのが面白いです。

 

 

あらすじ

「殺し屋が来て、兄さんを殺してしまったんで す」―江戸・深川の鉄瓶長屋で八百屋の太助が殺された。その後、評判の良かった差配人が姿を消し、三つの家族も次々と失踪してしまった。いったい、この長屋には何が起きているのか。ぼんくらな同心・平四郎が動き始めた。著者渾身の長編時代ミステリー。(上巻作品紹介より)

 

 

庶民の身分

この物語の一つのテーマと私が考えているのが、身分と立場です。江戸時代の話で身分というと、士農工商か大名、旗本、御家人といった武士の身分が思い付きます。

 

けど、この物語でポイントになる身分は、町人の身分です。例えば、作中でも言及されていますが、江戸の自治組織は三人いる「町年寄」を頂点に、その下に「町名主」(これは先日紹介した『まんまことの麻之助の家がそうです)がいます。「町名主」は自分の町に住む、「地主」や「家持ち」の人々を束ねます。

 

更に、その下にいわゆる庶民として、長屋暮らしの人や借家住まいの人がいます。この「地主」に代わって長屋の家賃を徴収したり、店子を監督したりするのが「差配人」です。今で言う、管理人に近いかもしれませんが、役割はだいぶ大きく、店子の身元引受人になったり、町内会の自治組織を運営したりします。「地主」からしても「店子」からしても、いい加減な人間に「差配人」になられると困るわけで、自然と人生経験豊富な年配の人間が勤めることになります。

 

物語では、そんな「差配人」がある事件により姿を消してしまった長屋を中心に展開します。

 

要所、要所で語られる店子と「差配人」のつながりや、「差配人」の重要性の説明があるからこそ、「差配人」が姿を消し、後釜に若い人間をすえることの不自然さが理解できます。

 

物語で身分や立場がキーポイントになるシーンはまだあります。

日常のすべてにおいて主人に生殺与奪の権利を握られており、どんな切ない理由があっても主人を傷つけたり殺したりすれば問答無用で打ち首獄門と、奉公人の立場はきわめて弱い。(上巻P100)

とあるように、店の主人と奉公人の間には埋められない差が存在するのですが、当然良い関係もあれば悪い関係もあります。物語でも、主人と奉公人の関係は何組も出てきます。二人の立場の差を理解して読むと、裏の裏まで見えることがあります。

 

長屋を中心とした濃密な人間関係を身分や立場の差というフィルターを通して読むと、ちょっと違った人間関係が見えてきます。そんな楽しみ方が出来るのが、この物語の一つの見所といえるでしょう。

 

 

湊屋と鉄瓶長屋

物語は鉄瓶長屋という長屋を中心に進行します。この長屋で殺人事件がおき、「差配人」が姿を消し、三組もの家族が失踪します。一連の出来事に違和感を感じた、『ぼんくら』同心・井筒平四郎は事件を洗いなおすことにします。

 

物語が進行していく中で、ちょいちょい名前が出てくるのが、鉄瓶長屋の地主・湊屋総右衛門です。名前は出てくるのに、いまいち正体不明な存在です。湊屋は同心である主人公の平四郎でもそうやすやすとは手を出せないほどの大商人で、上で書いた身分と立場の関係で言えば物語の人物の中では一番頂点に立つといえます。

 

そんな人物が、ぽっかりと人間関係の輪から一人浮いているのが不気味で、事件の底の深さを予感させます。

 

 

書評的な読書感想文のまとめ

人間関係の濃厚さと、事件の謎の深さだけで十分楽しめるこの物語ですが、キャラクターもまたすばらしいです。主人公の『ぼんくら』同心・平四郎と甥っ子で超がつくほどの美形の弓之助のコンビはもちろん。抜群の記憶力を持つ「おでこ」や長屋の心といわれる人の良い後家のお徳など、魅力的なキャラクターがいっぱいです。

 

特に主人公の平四郎は

いくら娘だからって、博打狂いの親父を見捨てていけないというわけはないと思うだがな(中略)

そもそも孝行心というものがどうにも胡散臭く感じられて仕方ないのである。(上巻P53)

なんてことを考える、役人としてはのんびりしてる「ぼんくら」だが、常識の裏が見えるとこもある魅力的な人物です。

 

魅力的なキャラに引っ張られて、600ページ以上の大ボリュームですがあっという間に読み終わってしまい、次回作も必ず読もうと思わされたってことで、星四つです。

よろしかったらクリックお願いします。

 

 - ☆☆☆☆ , ,